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剣士合同訓練 序

洞窟探索の翌日。

 寮の窓から差し込む光が、やけに眩しく感じられた。

 レオンはベッドの上で目を開けたまま、しばらく天井を見つめていた。

 ――あの一撃。

 弓を引き、放った矢。

 自分の中を流れた“何か”。

 魔法とは違う。けれど確かに、あれは力だった。

「……起きてるか」

 静かな声とともに、扉が軽く叩かれる。

「起きてる」

 短く返すと、扉が開いた。

 入ってきたのはユージンだった。

 いつも通り整った身なり、落ち着いた表情。だがその目は、どこか探るようにレオンを見ている。

「体調は?」

「問題ない」

「そうか」

 それ以上は聞かない。

 だが“何も気にしていないわけではない”――そんな距離感。

 少しだけ沈黙が落ちた。

「……昨日は大変だったね」

 ぽつりとユージンが言う。

「最初はどうなるかと思ったがな」

「お前が合わせてくれただけだ」

「違うな」

 ユージンは軽く首を振る。

「君が“止まらない”前提で組み直した。それだけだ」

 淡々とした言い方だったが、否定ではなかった。

 レオンは小さく息を吐いた。

「……行くか」

「ああ」

 二人は部屋を出る。

■ 教室

 教室に入ると、ざわめきが一瞬だけ止まった。

 視線。

 昨日の洞窟での出来事は、すでに広まっているらしい。

 レオンは気にせず、自分の席に座る。

 その時だった。

「やあ」

 軽やかな声がかかる。

 振り向くと、一人の男が立っていた。

 整った服装、柔らかな笑み。どこか“隙のない”雰囲気。

「昨日は大変だったらしいね」

 セイル。

 初めて見る顔だが、その物腰はやけに洗練されている。

「……別に」

 レオンが短く返すと、セイルは小さく笑った。

「謙遜か、それとも本当に興味がないのか」

「どっちでもいいだろ」

「確かに」

 くすり、と。

 その笑みは柔らかいのに、なぜか温度を感じない。

「でも君、面白いね」

 一歩、距離を詰める。

「普通じゃない」

 その言葉に、ユージンがわずかに視線を上げた。

「……どういう意味だ」

 静かに問う。

 セイルは肩をすくめる。

「そのままの意味さ。昨日の話、色々聞いたよ」

 視線がレオンに戻る。

「また機会があれば、じっくり話したいな」

 それだけ言うと、あっさりと離れていった。

 まるで、“値踏み”でもするかのように。

「……感じのいい奴ではないな」

 ユージンが低く呟く。

「どうでもいい」

 レオンはそれ以上気にしなかった。

 だが――

 あの視線だけは、妙に引っかかっていた。

 教室の扉が開く。

 ディルクが入ってきた瞬間、空気が引き締まる。

「着席しているな。いい」

 淡々とした声。

「本日の訓練内容を変更する」

 ざわめき。

「剣士訓練生との合同訓練を行う」

 一瞬、静まり返る。

 そして――

 明確な嫌悪とざわつきが広がった。

「は?」

「なんで剣士と……」

「面倒な……」

 魔法生徒側の不満。

 それに混じる、わずかな緊張。

 ディルクは気にせず続ける。

「目的は連携の確認と実戦適応。場所は外縁訓練区だ」

 視線が一瞬、レオンをかすめる。

「各自準備して移動しろ」

■ 訓練場への道

 外へ出ると、冷たい風が頬を撫でた。

 レオンたちは無言で歩く。

「……荒れるな」

 ユージンが小さく言う。

「そうか?」

「魔法側も剣士側も、互いに良く思っていない」

「関係ない」

 レオンは前を見たまま答える。

 ユージンは苦笑した。

「君はそうだろうな」

■ 集合地点

 開けた訓練場。

 そこにはすでに――剣士訓練生たちが並んでいた。

 重い空気。

 視線がぶつかる。

 あからさまな敵意。

「……来たかよ」

 誰かが吐き捨てる。

「お貴族様の魔法使い様が」

 くすくすと笑いが漏れる。

 魔法生徒側も負けていない。

「野蛮人が並んでるな」

「魔法も使えない連中が偉そうに」

 火種は十分すぎた。

 その中で――

 一人、鋭い視線がレオンに突き刺さる。

 褐色の肌、銀髪の短髪。

 アッシュ。

「……チッ」

 露骨な舌打ち。

「気に食わねぇな」

 はっきりと聞こえる声だった。

「剣も握れねぇ連中が、前に出るつもりか?」

 その言葉は、明確に“レオン”に向けられていた。

 レオンは視線を返す。

 何も言わない。

 ただ、逸らさない。

 空気が張り詰める。

「やめろ、アッシュ」

 低く落ち着いた声が割って入る。

 紫の長髪――レイ。

「今は任務中だ」

「……ケッ」

 不満げに顔を逸らすアッシュ。

 だが敵意は消えていない。

「はいはい、怖い怖い」

 軽い声。

 金髪の小柄な男がひょいと割って入る。

「せっかくの合同なんだし、仲良くやろーぜ?」

 シンだった。

 場違いなほど軽い空気。

 だがその目は、しっかりと周囲を見ている。

「……あんたがレオン?」

 ひょい、と顔を覗き込む。

「昨日の話、ちょっと聞いた」

 興味ありげな笑み。

「面白そうじゃん」

 敵意はない。

 純粋な“好奇心”。

「……別に」

「そーいうの嫌いじゃないよ」

 にっと笑うシン。

「よろしくな」

 軽く手を振る。

 その距離感に、アッシュがさらに舌打ちした。

 ディルクが前に出る。

「騒ぐな」

 一言で空気が締まる。

「班は事前に決めてある」

 紙を広げる。

「順に呼ぶ」

 名前が読み上げられていく。

 そして――

「レオン」

 呼ばれた瞬間、数人の視線が集まる。

「ユージン」

「……了解だ」

 隣でユージンが小さく頷く。

「アッシュ」

「……は?」

 露骨に不満そうな声。

「レイ」

「承知した」

「シン」

「お、当たりじゃん」

 軽い声。

 そして。

「以上の五名を一班とする」

 一瞬の沈黙。

 次の瞬間――

「ふざけんな」

 アッシュが吐き捨てた。

「なんで俺がコイツらと組まなきゃなんねぇ」

「命令だ」

 ディルクは一切揺るがない。

「従え」

 短い沈黙。

 アッシュは舌打ちし、顔を背けた。

「……最悪だ」

 だが離脱はしない。

 それが答えだった。

 レオンは何も言わない。

 ただ、目の前のメンバーを見た。

 温和なユージン。

 敵意を隠さないアッシュ。

 冷静なレイ。

 そして――笑っているシン。

「面白くなりそうだな」

 シンが小さく呟く。

 その言葉に、誰も返さない。

 だが――

 この班が、波乱になることだけは、全員が理解していた。

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