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届かない刃

低い唸り声が、洞窟を震わせる。

 重い。


 空気そのものが押し潰されるような圧。


 闇の奥から、“それ”が姿を現す。

 巨大だった。

 人の倍以上の体躯。


 黒く硬質な皮膚。


 筋肉が隆起し、獣のような四肢で地面を踏みしめる。


 だが——


 その目は、人に近い。


 理性の残滓。


「……デカすぎだろ」

 ニクスが吐き捨てる。


「ライカンスロープ」

 リシェルが言う。


 声はいつも通り冷静。


 だが——


 わずかに緊張が滲む。


「想定外」

 その一言で、全員が理解する。

 これは——

 “訓練用じゃない”。


 次の瞬間。

 消えた。

「っ——!」

 地面が爆ぜる。

 ライカンスロープが一瞬で間合いを詰める。


「速——」

 言い終わる前に、腕が振るわれる。

 ——ドンッ!!

 衝撃。

 空気が裂ける。


 レオンが咄嗟に剣を構える。

 受ける。


 だが——

 “重い”。

 比じゃない。

 腕が軋む。

 足が滑る。


 そのまま——


 吹き飛ばされる。


「ぐっ……!」

 壁に叩きつけられる。

 息が詰まる。


「レオン!」

 ユージンの声。


 すぐに光が飛ぶ。


 体の痛みがわずかに引く。


 だが——

 敵は止まらない。


「散開!」

 リシェルの指示。


 全員が動く。

 それぞれ距離を取る。


「チッ……!」

 ニクスが踏み込む。


 炎が膨れ上がる。

 今までとは明らかに違う密度。


「燃えろ!」

 放たれる。

 高密度の火球。


 一直線に、ライカンスロープへ。


 直撃。

 爆炎。

 洞窟内が一瞬、赤く染まる。

「……やったか?」

 誰かが呟く。


 次の瞬間。

 炎の中から、影が動く。

 無傷ではない。

 だが——


 “止まっていない”。

「は……?」

 ニクスの目が見開く。


 ランカンスロープが、炎を振り払う。

 皮膚が焦げている。


 だが——


 それだけだ。


 次の瞬間、踏み込む。

「来る!」

 ミレアの声。


 創造魔法の使い手が手をかざす。

 盾が“生成”される。

 分厚い。


 重厚な構造。


 それを前に出す。

 ——ドゴォン!!

 一撃。

 盾が——

 “砕ける”。

「っ……!」

 衝撃がそのまま抜ける。

 体ごと吹き飛ばされる。


「防げねえのかよ……!」

 ニクスが吐き捨てる。


「次が来る備えて」

 リシェル。


 冷静だが、その声は重い。

「わかってる…けど」

 レオンが立ち上り構え直す

 息を整える。


 見る。

 さっきの一撃。

 重さ。


 速さ。


(……勝てるのか、これ)

 だが——

 考える時間はない。


 再び来る。

 レオンが踏み込む。

 今度は避ける。

 横へ。


 懐に入る。


 斬る。

 ——バシュッ

 確かな手応え。

 “流れ”も乗る。


 だが——

 浅い。

 皮膚を裂いただけ。

「……は?」

 あり得ない。

 今までなら、それで終わっていた。


 だが、ライカンスロープは止まらない。

 腕が振り下ろされる。

 回避。

 間一髪。


 地面が砕ける。

「効いてねえ……!」

 レオンが歯を食いしばる。


「嘘…でしょ…再生してる」

 ミレアの声。


「傷が塞がってる!」

 見れば、さっきの斬撃の痕が——

 ゆっくりと閉じていく。


「冗談だろ……」

 ニクスが笑う。


 乾いた笑い。


「火力上げる!」

 再び構える。

 今度はさらに集中。


 炎が収束する。


 圧縮。

 高密度。


「これでどうだ!」

 放つ。

 直撃。

 爆発。

 さっきよりも強い。

 だが——

 煙の中から、また現れる。

 動きは、止まらない。

「……ふざけんなよ」

 ニクスの声が低くなる。


 効かない。

 レオンの斬撃も。

 ニクスの火力も。


 決定打にならない。

「……一度引くべき」

 リシェルが言う。


「同意だね」

 ユージンも頷く。


 だが——

 その瞬間。

 ライカンスロープが、ゆっくりと口を開く。

 唸り声。

 低く、深い。


 そして——

 踏み込む。

 さっきより速い。

「周りこまれるっ!」

 ミレアが叫ぶ。


 その言葉通りだった。

 この敵は——

 “狩る側”だ。

 逃げられない。

 退路がない。

 六人。

 全員が、理解する。

 これは——

 “勝てない戦い”だと。

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