深部の先に
奥へ進むほど、空気が変わる。
湿り気が増す。
音が減る。
生き物の気配が、逆に濃くなる。
「……多いな」
レオンが低く呟く。
「反応、増加」
リシェルも短く言う。
さっきより明らかに数が多い。
そして——
質も違う。
「警戒して進もう」
ユージンの声。
いつも通り落ち着いているが、わずかに緊張が混じる。
三人は歩を緩める。
足音を抑え、慎重に進む。
その時だった。
——金属音。
奥から、ぶつかる音が響く。
戦闘音。
三人の動きが止まる。
「……別班」
リシェル。
「だな」
レオンも頷く。
「どうする?」
ユージンが確認する。
レオンは迷わなかった。
「行く」
短く言う。
三人は走る。
音の方へ。
通路を抜ける。
視界が開ける。
そこには——
三人組がいた。
赤い炎が弾ける。
爆ぜるような熱。
魔物を焼き払う。
その中心にいたのは——
「……チッ」
ニクスだった。
こちらに気づく。
眉をしかめる。
「お前かよ」
露骨な不満。
だが戦闘は続いている。
黒い魔物が複数、周囲を囲んでいた。
その後ろ。
一人の少女。
深緑のふわふわした髪の少女
手をかざしている。
「右後方、三体!」
声が飛ぶ。
はっきりしている。
状況把握が速い。
もう一人。
ニクスの隣。
手を前に出す。
その瞬間——
“形”が生まれる。
空中に、剣。
盾。
武器が“構築”される。
それを掴み、そのまま魔物へ叩き込む。
「はっ!」
創られた武器が、砕けながら魔物を潰す。
レオンは一瞬、目を見開く。
(……なんだ、あれ)
だが、考える暇はない。
「合流するぞ」
ユージンが言う。
三人が前に出る。
「勝手に来んな!」
ニクスが叫ぶ。
「数が多い」
リシェルが即答。
「……チッ」
舌打ち。
だが拒否はしない。
それで十分だった。
共闘が成立する。
「前に出る!」
レオンが踏み込む。
魔物が反応する。
レオンへ集中する。
「いい囮だな」
ニクスが笑う。
炎が走る。
レオンの横をかすめ、後方の敵を焼く。
「巻き込むな!」
「避けろよ!」
雑な連携。
だが——
噛み合っている。
「左二体、動き速い!」
メガネの少女が叫ぶ。
「了解!」
ユージンが応じる。
支援の光が走りレオンを癒し
リシェルの氷が地面を走る。
足止め。
レオンが斬る。
ニクスの炎が追撃。
創造された槍が飛ぶ。
連携。
即席だが——
機能している。
数分。
戦闘は終わった。
静寂。
「……はぁ」
ニクスが息を吐く。
「最悪だ」
レオンを見る。
「なんでお前と組んでんだよ」
「組んでねえ」
レオンも返す。
一瞬の沈黙。
「……まあいい」
ニクスが肩を回す。
「とりあえずは片付いたな」
ぼそりと言う。
完全な認めではない。
だが——
否定でもない。
「ミレア」
ニクスが後ろを見る。
「状況は」
「この先、反応が一つだけ大きい」
メガネの少女——ミレアが言う。
「…反応が段違い」
リシェルがわずかに反応する。
「……上位個体」
ユージンも頷く。
「可能性高いね」
レオンは剣を握る。
さっきから感じている“濃い気配”。
それと一致する。
「どうする」
ニクスが聞く。
誰に、とは言わない。
だが——
全員に向けている。
一瞬の静寂。
「行くしかないだろ」
レオンが言う。
「決まりだな」
ニクスも即答。
リシェルは無言で頷く。
ユージンも同じ。
ミレアは少しだけ息を整え——
「……気をつけて」
小さく言う。
もう一人、創造魔法の使い手は何も言わない。
ただ、静かに手を構える。
“創る準備”。
六人。
即席の大人数パーティ。
洞窟の奥へ進む。
空気が変わる。
重い。
圧がある。
そして——
奥の闇の中で。
“それ”が、ゆっくりと動いた。
低い唸り声。
人ではない。
魔物。
だが——
今までとは明らかに違う。
ライカンスロープ。
その存在が、静かに牙を剥いた。




