流れのままに
静寂が戻る。
さっきまでの戦闘が嘘のように、洞窟は再び音を飲み込んでいた。
水滴の音だけが、一定のリズムで響く。
「……一度、確認しよう」
ユージンが言う。
声は落ち着いている。
だが、その目は完全に“戦場”を見ていた。
三人は自然と足を止める。
誰も反対しない。
「まず配置」
ユージンが指を軽く動かす。
「レオンが前。これは固定でいい」
迷いがない。
「リシェルはその一歩後ろ。制御優先」
「問題ない」
即答。
「僕はさらに後ろ。支援と回復」
そこまで言って、一度レオンを見る。
「……問題はここからだ」
レオンは黙って聞く。
「さっきの戦い、個々の動きは悪くない」
「でも、ズレる」
リシェルが補足する。
「そうね」
ユージンが頷く。
「原因は単純だ」
「レオンが“先に動く”から」
その言葉に、レオンはわずかに目を細める。
「……癖だ」
「分かってる」
ユージンは否定しない。
「一人で戦ってきた動きだ」
その通りだった。
「だから、完全に合わせる必要はない」
「……は?」
予想外の言葉。
「合わせるんじゃなくて、“基準にする”」
リシェルが少しだけ興味を示すように目を動かす。
「レオンが動く。それを起点にする」
ユージンは続ける。
「僕たちが合わせる」
「非効率ね…敵の把握をしてからの方がいい」
リシェルが即座に言う。
「通常はね」
ユージンは淡々と返す。
「でも彼の勘と判断力は高い」
一瞬の間。
「制御するより、利用した方がいい」
合理的な結論だった。
リシェルは数秒考える。
そして——
「……許容範囲」
短く答える。
「ただし」
レオンを見る。
「無駄な動きは禁止」
「……善処する」
レオンも短く返す。
完全な合意ではない。
だが——
“形”はできた。
「じゃあ行こう」
ユージンが言う。
三人は再び歩き出す。
洞窟の奥へ。
道は徐々に狭くなる。
足場も悪い。
岩が張り出し、視界を遮る。
「……分岐ね」
リシェルが言う。
確かに、細い通路が枝分かれしている。
「どうする?」
ユージンが聞く。
レオンは少し考える。
視線を向ける。
(……こっちじゃない)
理由は分からない。
だが——
“薄い”。
「左だ」
短く言う。
「根拠は」
リシェル。
「……気配」
それだけ。
一瞬の沈黙。
「…無茶苦茶ね」
「でも、外してない」
ユージンが口を挟む。
「さっきも先に反応してた」
リシェルはレオンを見る。
観察するように。
「……採用」
決まる。
三人は左へ進む。
数歩進んだ先。
“いた”。
さっきより多い。
五体。
「来る」
リシェル。
その瞬間——
レオンが動く。
だが今度は違う。
“突っ込まない”。
一歩だけ前に出る。
引きつける。
魔物が一斉に反応する。
レオンへ向かう。
「今」
ユージン。
背後から、淡い光。
体が軽くなる。
視界がクリアになる。
同時に——
地面が凍る。
魔物の動きが鈍る。
足が止まる。
“流れ”ができる。
レオンは、それを感じる。
(……これか)
三人の中を流れるもの。
踏み込む。
斬る。
——バシュッ
一体。
返す刃。
——バシュッ
二体。
止まらない。
だが、無理もしない。
“来る敵だけを斬る”。
それだけに集中する。
残り三体。
そのうちの一体が、横へ逃げる。
「右」
リシェル。
氷が走る。
逃げ道を塞ぐ。
レオンが追う。
斬る。
——三体目。
残り二体。
同時に来る。
だが——
遅い。
動きが読める。
流れが見える。
斬る。
斬る。
——終わり。
静寂。
今度は、さっきより早く終わった。
「……効率が上がった」
リシェルが言う。
「うん、いいね」
ユージンも頷く。
レオンは息を吐く。
さっきとは違う。
“無理がない”。
自分一人じゃない。
合わせる必要もない。
ただ——
“流れに乗る”。
「その感覚、忘れないで」
ユージンが言う。
「…まだ奥に居るみたいだね」
その言葉に、レオンは剣を握り直す。
まだ終わりじゃない。
むしろ——
ここからだ。
洞窟の奥。
さらに濃い“気配”が、確かに存在していた。




