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ディルクの紹介

 数日後――。


 ルミナリア王都、転移施設前。


 広々とした石畳の広場には、多くの冒険者や商人が行き交い、転移門を利用する人々で朝から賑わっていた。


 その一角に、レオンたちの姿がある。


 レオン。


 ユージン。


 シン。


 アズール。


 そしてユージンの背中に背負われた大きな鞄の中には、相変わらずケンジャが身を潜めていた。


 リヴァリアへ向かう準備は、すでに整っている。


 荷物の確認も済ませた。


 あとは、ディルクが紹介すると言っていた同行者を待つだけだった。


 ――なのだが。


「……遅くね?」


 ぼそり、と鞄の中から聞こえてきた声に、ユージンは飛び上がるように反応した。


「しっ! しーっ!!」


 慌てて鞄を抱き締め、小声でまくし立てる。


「頼むから静かにしてください!」


「何でだよ」


「何ででも! 見つかったら面倒なの!」


 必死なユージンとは対照的に、ケンジャの声にはまるで緊張感がない。


 そのやり取りを見ていたアズールが、思わず苦笑を漏らした。


「ふふ……相変わらずだな」


「それにしても、本当に来ないな……」


 広場を見回しながら呟く。


「そうだな」


 隣でシンも腕を組み、周囲へ視線を巡らせた。


「レオン。待ち合わせの時間、間違えたんじゃねぇのか?」


「いや……そんなはずねぇんだけどな」


 レオンは首を傾げる。


 ディルクから伝えられた時間は、とっくに過ぎていた。


 それでも、それらしい人物は一向に現れない。


 風だけが広場を吹き抜け、短い沈黙が流れる。


 その時だった。


「おーい、クソガキどもぉ……」


 気だるそうな女の声が、不意に広場へ響く。


 全員が一斉に振り返った。


 そこに立っていたのは、一人の女性だった。


 腰まで伸びた艶のある金髪。


 黒い外套は無造作に羽織られ、襟元もどこか着崩れている。


 片手は外套のポケットへ突っ込み、もう片方の手には火の付いた煙草。


 紫煙をゆっくりと吐き出しながら歩いてくる姿は、教師というより場末の酒場で酒を飲み歩く無頼漢を思わせた。


 近寄るだけで、どこか近付き難い空気を纏っている。


「こ、この人が……?」


 ユージンが思わず目を丸くする。


 レオンも思考が止まったように女性を見つめた。


「……ディルクの紹介人……?」


 どう見ても教官や騎士には見えない。


 むしろ、喧嘩を売る側の人間にしか見えなかった。


 そんな一同の反応など意にも介さず、女性はレオンたちの前で足を止める。


「……その制服」


 煙草を咥えたまま目を細めた。


「お前らがディルクの生徒か」


「え……あぁ。そうだけど」


 レオンが答えると、女性は興味なさそうに視線を外した。


 次に目を向けたのは、シンとアズールだった。


「……で?」


 鋭い眼光が二人を射抜く。


「お前たちは?」


 その視線は値踏みなどという生易しいものではない。


 まるで獲物の力量を見極める猛獣のようだった。


 シンは無意識に息を呑み、アズールでさえ僅かに肩へ力が入る。


 女性はしばらくシンの顔を眺め――。


「あぁ?」


 僅かに眉を上げた。


「お前……ファルガの子だろ?」


 シンも少し驚いた表情を浮かべる。


「……あぁ」


「やっぱりか」


 女性は納得したように頷くと、今度はアズールへ視線を向けた。


「私はアズールだ。今回の遠征では前衛を担うつもりでいる」


「ふーん」


 返ってきたのは、驚くほど素っ気ない返事だった。


 そして女性は大きく煙を吐き出し、深々とため息を漏らす。


「ディルクの生徒に、ファルガの弟子か……」


 紫煙が空へとゆっくり昇っていく。


「私に子守をさせるとは、いい度胸してんなぁ、あいつら」


「子守……?」


 レオンの眉がぴくりと動く。


 隣ではシンも露骨に不満そうな顔を浮かべていた。


 そんな二人を見て、女性は鼻で笑う。


「何だ、その顔」


「別に」


「ガキはガキらしくしてろ」


「だからガキじゃ――」


 言い返そうとしたレオンを、ユージンが慌てて制した。


「あ、あの!」


 女性が面倒臭そうに視線だけを向ける。


「……あぁ?」


「その……そろそろ、お名前を伺ってもよろしいでしょうか……?」


 その言葉に女性は一瞬だけきょとんとした顔を見せた。


「あ?」


 頭をぽりぽりと掻く。


「ディルクから聞いてねぇのか?」


「聞いてません」


「なるほどな」


 女性は煙草を口から外し、指先で軽く弾いた。


 赤い火種が石畳へ落ち、小さな火花を散らして消える。


 そして口元をゆっくりと吊り上げた。


「私はカリファ」


 どこか獰猛さすら感じさせる笑みを浮かべながら、自らの名を告げる。


「――カリファ・メーベルだ」


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