旅の仲間②
学園を後にしたレオン達は、中央街へと続く石畳の道を歩いていた。
空は雲一つない快晴。
暖かな陽射しが街を照らし、人々の賑やかな声が絶え間なく耳へ届く。
いつもと変わらぬ平和な光景だった。
しかし、三人の表情にはどこか思案げな色が浮かんでいる。
レオンは両手を頭の後ろで組み、青空を見上げながらぽつりと呟いた。
「とは言え……」
少し困ったように頭を掻く。
「ヒルデと、どうやって連絡取ろうか」
問題はそこだった。
リヴァリアへ向かう方針は決まった。
だが、肝心のヒルデが今どこにいるのか分からない。
ユージンも腕を組みながら考える。
「ファルガさんなら知ってるんじゃない?」
「かもな」
レオンは素直に頷いた。
「あとはレイかシンなら、連絡先くらい知ってるかもしれねぇし」
少しだけ考え込み、やがて結論を出す。
「とりあえずヴァルグラントに行くか」
リシェルも静かに頷いた。
「……ん」
そうと決まれば話は早い。
三人はそのまま転移施設へ向かい、ヴァルグラント行きの魔法陣へ足を踏み入れた。
眩い光が身体を包み込む。
次の瞬間。
見慣れた景色が目の前へ広がっていた。
ヴァルグラント。
武人達が集う活気ある街。
鍛冶場から響く金槌の音。
屋台から漂う香ばしい匂い。
木材を運ぶ職人達の威勢のいい掛け声。
どこか懐かしく、温かみのある空気が街全体を包んでいた。
「相変わらず賑やかだな」
レオンは自然と口元を緩める。
三人はそのままファルガの家へ向かって歩き始めた。
すると――。
「おう!」
不意に聞き覚えのある大きな声が飛んできた。
「レオンじゃねぇか!」
三人が振り返る。
そこに立っていたのは、日に焼けた大柄な男だった。
鍛え抜かれた体躯。
豪快な笑顔。
その顔を見た瞬間、レオンは思わず背筋を伸ばす。
「あ……」
どこかぎこちない笑みを浮かべる。
「どうも……お久しぶりです」
その反応を見た男は豪快に笑った。
「おう! 久しぶりだなぁ!」
隣で見ていたユージンとリシェルは、不思議そうに顔を見合わせた。
ユージンが小声で尋ねる。
「知り合いかい?」
「あぁ」
レオンは頷いた。
「そうか、お前達は初対面だったな」
そう言って男へ手を向ける。
「この人はハイロさん」
「インターンの時に世話になった人だ」
その説明に二人は納得したように頷く。
ハイロは胸を張り、豪快に笑う。
「ハイロだ!」
「よろしくな!」
ユージンは丁寧に一礼した。
「はじめまして。ユージンと申します」
「……リシェル」
リシェルも簡潔に名乗る。
「おう!」
ハイロは満足そうに大きく頷いた。
そして改めてレオンへ視線を向ける。
「今日はどうした?」
「まさか新人の家作りでも手伝いに来たのか?」
「家作り?」
レオンは首を傾げる。
今度はハイロが不思議そうな顔をした。
「ん?」
「聞いてねぇのか?」
そう言うと、当然のように笑う。
「確かメルちゃんとアズールだったか?」
三人の表情が変わる。
「今、皆で二人の家を建ててる最中なんだ」
「……は?」
思わずレオンの口から間の抜けた声が漏れた。
あまりにも予想外だった。
ハイロは気にする様子もなく話を続ける。
「ファルガさんが面倒見てるんだけどな」
「流石に、ずっと居候ってわけにもいかねぇだろ?」
「だから近所に家を建ててるんだよ」
三人は顔を見合わせた。
そんな話は聞いていない。
「へぇ……」
ユージンが感心したように呟く。
ハイロは嬉しそうに頷いた。
「アズールもよく働くしな」
「メルちゃんも、自分に出来ることは一生懸命頑張ってる」
少し笑って付け加える。
「アッシュやシンと違って礼儀正しい奴らだよ」
「比べる相手が悪い」
思わずレオンが突っ込む。
ハイロは腹を抱えて笑い出した。
「はっはっはっ!」
その笑い声につられるように、レオン達も自然と笑みを浮かべる。
アルケイアを失い。
故郷を追われ。
長い逃亡生活を続けてきた二人。
そんな彼らが少しずつこの町へ馴染み、新しい生活を始めようとしている。
その事実が、何より嬉しかった。
ユージンも柔らかな笑みを浮かべる。
「そうですか」
「安心しました」
そして、本来の目的を思い出した。
「実は今日はファルガさんに用事がありまして」
「ん?」
「ヒルデさんについて聞きたいんです」
ハイロは「あぁ」と納得したように頷いた。
「なら、家作りを手伝ってるか訓練所のどっちかだろうな」
そう言って親指で前方を指し示す。
「ファルガさん家の真隣だ」
「え?」
三人は思わず顔を見合わせた。
ファルガの家の真隣。
つまり――。
「……近い」
リシェルがぽつりと呟く。
ハイロは豪快に笑った。
「近所付き合いは大事だからな!」
いかにもヴァルグラントらしい理屈だった。
礼を言って別れると、三人は再び歩き始める。
やがて見えてきたのは、見慣れたファルガの家。
そして、そのすぐ隣。
建築途中の新しい家だった。
積み上げられた木材。
あちこちに置かれた工具。
木槌を打つ音と、人々の楽しげな声が辺りに響いている。
あの場所にはきっと――。
新たな人生を歩み始めようとしている二人がいる。
レオンは自然と口元を緩めた。
「行くか」
ユージンとリシェルも静かに頷く。
三人は歩みを進める。
ファルガに会うために。
そして――。
新しい居場所を見つけた、大切な仲間達のもとへ向かうのだった。




