旅の仲間
会議室を後にしたレオン達は、静かな廊下を並んで歩いていた。
背後では重厚な扉がゆっくりと閉まり、その鈍い音が石造りの廊下へ静かに響き渡る。
ようやく張り詰めていた空気から解放されたレオンは、大きく両腕を伸ばした。
「ふぅ……」
肩や首を鳴らしながら息を吐く。
どうやら思っていた以上に肩へ力が入っていたらしい。
その様子を横目で見ながら、ユージンも小さく息を漏らした。
「それで?」
早速、本題へ入る。
「メンバーはどうする?」
レオンは顎へ手を当てながら考え込む。
「そうだなぁ……」
まず頭に浮かんだのは、いつもの仲間達だった。
「正直言うとさ」
「リシェルやミレア、それにニクスの野郎にも来てほしいんだけどな」
少し残念そうに笑う。
しかし、すぐに首を横へ振った。
「許可証が無いから無理なんだよな」
リシェルも静かに頷く。
「……当然」
閉鎖国家へ入る以上、それは避けられない問題だった。
ユージンも真面目な表情で口を開く。
「どのみち、大人数は危険だよ」
「許可証があるとはいえ、基本的に人の出入りを禁じている国なんだから」
閉鎖国家。
その言葉が持つ重みを、三人とも十分理解していた。
レオンは頭を掻きながら苦笑する。
「じゃあ俺とお前」
「あと教官が言ってた紹介してくれる人」
指を折りながら人数を数える。
「三人だけで行くか?」
ユージンは腕を組み、少し考え込んだ。
「うーん……」
やがて何か思い付いたように手を打つ。
「あ、ヒルデさんは誘ってみない?」
レオンもすぐに納得したように頷いた。
「あー、それはありだな」
ヒルデなら経験も豊富だ。
冷静な判断力もあり、交渉役としても頼りになる。
「アッシュやレイも誘いてぇっちゃ誘いてぇけどな」
苦笑混じりに呟く。
しかし、その二人が同行した姿を想像した瞬間。
「……流石に多すぎるかぁ…」
レオンは自分で言って苦笑した。
ユージンも思わず吹き出す。
「それは否定できないね」
その時だった。
ユージンの肩へ掛けた鞄が、ごそごそと動き始める。
「……お前達」
ひょこっと顔を覗かせたのはケンジャだった。
相変わらず遠慮というものを知らない。
「私も行くぞ?」
まるで当然のような口調だった。
しかし。
ユージンは間髪入れずに答える。
「駄目に決まってるでしょ」
「何故だ!?」
ケンジャが声を上げる。
ユージンは指を一本ずつ立てながら淡々と言った。
「危険だから」
「君が問題を起こすから」
「余計なことを喋るから」
容赦のない三連撃だった。
ケンジャは衝撃を受けたように固まる。
「ひ、ひどくないか!?」
必死にレオン達へ助けを求める。
しかし。
レオンは気まずそうに視線を逸らし、リシェルも何も言わない。
誰一人否定してくれなかった。
「…………」
ケンジャはぷるぷると肩を震わせる。
そして、不意に真面目な表情になった。
「いいのか?」
その一言に、ユージンが眉をひそめる。
「何が?」
ケンジャは腕を組み、堂々と胸を張った。
「私を置いていこうとしたら――」
一拍置く。
「ルミナリア中を走り回ってやる」
沈黙。
レオンの額へ青筋が浮かんだ。
「……こいつ」
隣ではリシェルが無表情のまま呟く。
「……凍らせる?」
その声音には、一切の冗談が含まれていなかった。
「!?」
ケンジャの顔色が一瞬で青ざめる。
「ま、待て待て待て待て!!」
慌ててユージンの鞄の中へ潜り込む。
「話し合おう!」
「平和的に解決しようじゃないか!」
必死である。
しかし、ユージンの返事はどこまでも冷静だった。
「嫌なら大人しく留守番してて」
「ぐぬぬぬ……」
ケンジャは悔しそうに唸る。
だが。
次の瞬間だった。
「……待てよ」
突然、何かを思い付いたように目を輝かせる。
その表情を見た瞬間。
三人は同時に嫌そうな顔をした。
――ろくでもないことを思い付いた時の顔だ。
ケンジャは胸を張る。
「考えてみろ」
「リヴァリアはリュクシアと同じく、魔物と共存している国だ」
その言葉にレオン達の表情が少しだけ変わる。
ケンジャは勢いよく続けた。
「そこで私という存在は大きい!」
「人間と魔物が共存している姿を見せられる!」
「外交的にも文化的にも極めて有意義な――」
「……確かに」
途中でユージンがぽつりと呟いた。
「え?」
今度はケンジャが固まる番だった。
まさか肯定されるとは思っていなかったらしい。
ユージンは真面目な表情で考え込む。
「リュクシアでも実績があるしね」
「交渉材料としては悪くないかもしれない」
レオンも腕を組みながら頷いた。
「まぁな」
ケンジャが同行することで話が通じる可能性は確かにある。
少なくとも、可能性はゼロではない。
しばらく悩んだ末、レオンは諦めたように息を吐いた。
「……仕方ねぇな」
ケンジャの目が一気に輝く。
「本当か!?」
「その代わり」
レオンは人差し指を突き付けた。
「勝手に走り回るな」
「分かった!」
「勝手に物を食うな」
「分かった!」
「勝手に喋るな」
「それは難しい」
即答だった。
三人は同時に頭を抱える。
リシェルが小さく呟く。
「……やっぱり凍らせる?」
「やめろぉぉぉぉぉっ!!」
ケンジャの悲鳴が学園の廊下いっぱいに響き渡る。
周囲を歩いていた生徒達が何事かと振り返る中、一行はいつもと変わらない騒がしさで歩いていく。
そんな仲間達の背中を見つめながら、ユージンは心の中でそっと呟いた。
(……本当に大丈夫なんだろうか)
リヴァリアへ向かう前だというのに、不安材料は一つ増えただけだった。
そのことに気付いているのは、どうやら自分だけらしい。
ユージンは小さくため息を吐き、騒がしい仲間達の後を追うのだった。




