水槍の暗殺者④
吹き飛ばされた二体のガロウ種。
しかし――まだ息はあった。
瓦礫を跳ね飛ばしながら巨体を起こし、低く唸り声を漏らす。
その赤い双眸が次に捉えた獲物は、レオン達ではなかった。
リシェル達だ。
次の瞬間、二体は地面を抉るように駆け出した。
「――っ!?」
アズールの表情が変わる。
「しまった!!」
向かう先は、メルとユージンを守るリシェル。
アズールは咄嗟に駆け出そうとする。
だが――。
ギィンッ!!
耳を裂く風切り音。
巨大な鎌が横薙ぎに振り抜かれた。
「くっ!」
アズールは剣を滑らせるように当て、辛うじて軌道を逸らす。
腕へ鈍い衝撃が走る。
その間にも、ガロウ達は距離を詰めていく。
「通させるか……!」
一歩踏み出そうとした瞬間、キラーマンティスは待っていたかのように追撃を繰り出した。
左右の鎌が狂ったように唸る。
木々を断ち切り、岩肌を抉る連続斬撃。
アズールは歯を食いしばった。
焦るな。
相手を見ろ。
刃ではなく、肩の動き。
腕の軌道。
重心。
呼吸。
紙一重で躱し、最小限の力で受け流す。
真正面から受ければ押し負ける。
だから捌く。
隙を待つ。
ただ、それだけに集中する。
――だが。
「……っ!」
ふらり、と身体が揺れた。
連日の疲労。
空腹。
休息も満足に取れていない身体が、ついに悲鳴を上げる。
踏み込みが僅かに乱れた。
アズールはすぐ体勢を立て直そうとする。
しかし、その一瞬で十分だった。
視線を戻した時には、巨大な鎌が目前まで迫っている。
「――しまッ」
間に合わない。
剣も届かない。
脳裏を過ぎるのは、メルの泣き顔。
父の背中。
命を懸けて自分達を逃がしてくれた仲間達。
せめて今度こそ――。
守りたかった。
その瞬間だった。
「アズールォォ!!」
怒号が森に轟く。
グラナスの槍を弾き返し、生まれた一瞬の隙を逃さず駆け抜けたレオンが、黒い影となって割って入った。
地面を滑るように踏み込み、下段から一気に剣を振り上げる。
白い斬光が閃いた。
ズバァァァァァッ!!
キラーマンティスの巨大な腕が宙を舞う。
緑色の体液が噴水のように吹き上がった。
ギャァァァァァァッ!!
耳障りな絶叫。
キラーマンティスが苦悶に身体を反らす。
アズールは呆然と目の前の背中を見つめていた。
レオンは剣を構え直しながら、肩越しに振り返る。
「ぼーっとしてんじゃねぇ!」
「……っ」
「死ぬ気で守るんじゃなかったのかよ!」
その一言が、アズールの胸を強く打った。
揺らいでいた瞳に、再び光が宿る。
レオンは口元を吊り上げ、不敵に笑った。
「だったら最後まで立て――アズール!」
その背中は、誰よりも大きく見えた。




