3人
翌日。
教室の空気は、どこか張り詰めていた。
昨日とは違う種類の緊張。
興味と警戒が混ざっている。
その中心にいるのは——
自分だと、レオンは分かっていた。
扉が開く。
ディルクが入ってくる。
「座れ」
短く言う。
すでに座っている者も、姿勢を正す。
「本日は実地訓練に移る」
その一言で、ざわめきが広がる。
「学園外の洞窟にて、小規模な魔物討伐を行う」
説明は簡潔だった。
「三人一組で行動。各自で編成しろ」
それだけ。
だが、その意味は重い。
教室が一気に動く。
席を立つ者。
声をかける者。
すでに組んでいた者同士で固まる者。
迷いはない。
慣れている。
あるいは——
“選別”が始まっている。
レオンは動かなかった。
動く理由がない。
声をかける相手も、いない。
視線は感じる。
だが——
誰も近づいてこない。
「レオン」
声。
横を見ると、ユージンが立っていた。
「組もう」
迷いがない。
当たり前のように言う。
「……いいのか?」
思わず聞く。
昨日のことがある。
普通なら、避けるはずだ。
「問題ない」
即答だった。
「むしろ都合がいい」
少しだけ笑う。
「前衛が欲しかった」
レオンは少しだけ黙る。
その言い方が、妙にしっくりきた。
役割として見られている。
それが逆に、楽だった。
「……わかった」
短く頷く。
それで決まった。
「あと一人だな」
ユージンが周囲を見る。
だが——
すぐに目が止まる。
教室の後方。
一人で座っている少女。
水色の髪。
表情がほとんど動かない。
周囲と関わる様子もない。
「彼女にしよう」
ユージンが言う。
「……あいつ?」
「うん」
特に理由は言わない。
だが、迷いはなかった。
二人で近づく。
少女は視線を上げる。
感情が読めない。
ただ、こちらを見ている。
「組まないか」
ユージンが声をかける。
シンプルだった。
「理由は」
即答。
無駄がない。
「役割が噛み合う」
ユージンも同じく簡潔に返す。
「僕は回復。彼は前衛」
レオンを軽く示す。
「後方支援と制御が必要だ」
少女は数秒、黙る。
視線がレオンに向く。
観察するように。
評価するように。
「……昨日の」
小さく呟く。
知っている。
見ていた。
「不安定」
はっきりと言う。
だが、否定ではない。
「制御できれば戦力」
レオンは何も言わない。
ただ、その言葉を受け止める。
「あなたは?」
レオンが聞く。
少女はわずかに目を細めた。
「リシェル」
それだけ。
余計なことは言わない。
「組む」
短く結論を出す。
立ち上がる。
「条件は一つ」
視線がレオンに向く。
真っ直ぐに。
「暴走しないこと」
レオンは少しだけ笑った。
皮肉でも、自嘲でもない。
ただ——
「……できるだけな」
正直に答える。
リシェルは一瞬だけ目を細めた。
それがどういう意味かは、分からない。
だが——
否定はされなかった。
「決まりだな」
ユージンが言う。
軽く手を叩く。
「いい組み合わせだと思う」
三人。
形は整った。
周囲を見ると、すでにほとんどの組が決まっていた。
その中で——
この三人だけ、少しだけ“浮いていた”。
異質。
理論。
無表情。
噛み合うのか。
崩れるのか。
誰にも分からない。
「準備しろ」
ディルクの声。
教室が再び引き締まる。
「出発はすぐだ」
三人は立ち上がる。
それぞれの武器を手に取る。
レオンは剣を握る。
あの“流れ”は、まだ掴みきれていない。
だが——
確実に、そこにある。
ユージンは静かに杖を持つ。
無駄がない。
すでに役割を理解している。
リシェルは何も言わず、外を見る。
状況を読む目。
戦場を想定している。
三人は、まだ知らない。
この洞窟で。
それぞれの“役割”が——
はっきりと刻まれることを。




