ヘイルズとの別れ
数日後――。
レオン達は、ルミナリア国内にある転移施設を訪れていた。
天井の高い石造りの大広間。
床の中央には巨大な転移魔法陣が刻まれ、淡い光を放っている。
その魔法陣の前で、一人の老人が大きく息を吐いた。
「ふぅ~……これでお別れじゃなぁ」
ヘイルズだった。
その背には、大量の荷物が括り付けられている。
しかも、ただの荷物ではない。
木箱二つ分はあろうかという酒瓶を縄でまとめ、山のように背負っていた。
普通の人間なら立っているだけでも足が震えそうな重量だ。
しかし、ヘイルズはまるで何事もないかのように平然と立っている。
改めて、ドワーフという種族の底知れぬ頑丈さを実感させられた。
「お前さんらとの旅、中々楽しかったぞい」
豪快に笑いながら振り返る。
その笑顔に、レオンも自然と口元を緩めた。
「あぁ……またな」
「本当にありがとうございました」
ユージンも深く頭を下げる。
「シンの義足だけじゃありません。旅の間も、本当に色々助けてもらいました」
「ほっほっほ!」
ヘイルズは愉快そうに笑い、ひらひらと手を振った。
「気にするな、気にするな。儂も久しぶりに面白い旅ができたわい」
その横で、ヒルデが小さく微笑む。
「またいつか、酒でも飲み明かそう」
「ほっほっほ! その時はお主を飲み潰してやるわい!」
「望むところだ」
二人は顔を見合わせて笑う。
短い旅だった。
だが、共に旅をし、酒を酌み交わし、笑い合った時間は、確かな絆となっていた。
「……達者でな」
ヘイルズはそう言うと、転移魔法陣の中央へ歩み出る。
直後、足元の紋様が淡く輝き始めた。
ブゥン――。
低く響く魔力の振動。
空間そのものがゆっくりと震え始める。
魔法陣の光は徐々に強さを増し、やがて白い光がヘイルズの身体を包み込んだ。
「それじゃぁの!」
最後まで豪快に笑いながら手を振る。
次の瞬間。
眩い閃光と共に、その姿は跡形もなく消えていた。
残されたのは、静かな魔力の余韻だけ。
「……行っちゃったね」
ユージンがぽつりと呟く。
「あぁ……」
レオンはしばらく、誰もいなくなった魔法陣を見つめていた。
もうあの豪快な笑い声は聞こえない。
ほんの少しだけ胸に寂しさが残る。
だが、それぞれに帰る場所があり、進むべき道がある。
別れとは、そういうものなのだろう。
すると、ヒルデが肩を軽く回しながら口を開いた。
「さて……私もそろそろ失礼するとするか」
レオン達へ視線を向ける。
「お前達は、この後どうする?」
「うーん……」
レオンは少しだけ考え込んだ。
リュクシアでの戦い。
ゼルガリアでの激戦。
シンの義足作り。
慌ただしい日々がようやく一段落し、ようやく落ち着いて息をつけるようになった。
だからこそ――。
「充分体も休めたしさ」
レオンは顔を上げ、笑みを浮かべる。
「そろそろ次の任務でも受けていい頃なんじゃないか?」
「そうだね」
ユージンも頷いた。
「考えてみれば、僕達って事件にはたくさん巻き込まれてきたけど……普通の任務って、まだあまり経験してないんだよね」
魔物討伐。
護衛依頼。
素材採集。
本来学生魔導士が積み重ねるべき経験は、まだ決して多くはない。
これから先こそが、本当の意味で魔導士としての第一歩なのかもしれなかった。
「それじゃ」
レオンが歩き出す。
「魔導組合に行こうか」
「うん」
ユージンもその隣へ並ぶ。
そんな二人を見て、ヒルデはどこか嬉しそうに目を細めた。
「そうか……」
そして踵を返す。
「また共に戦う機会があれば、その時はよろしく頼む」
軽く片手を上げるヒルデ。
レオンも笑いながら手を振り返した。
「あぁ。こっちこそ」
「えぇ。またご一緒しましょう」
ユージンも穏やかに微笑む。
「ふっ……楽しみにしている」
そう言い残し、ヒルデは人混みの中へと歩いていく。
やがて、その背中は学生達の波に溶け込み、見えなくなった。
しばらくその姿を見送った後、ユージンが小さく笑う。
「それじゃ、行こうか」
「あぁ」
レオンは力強く頷いた。
二人は肩を並べ、ゆっくりと歩き始める。
向かう先は、魔導組合。
新たな任務。
新たな出会い。
そして、まだ知らぬ新たな騒動へ――。
レオン達は、未来へ続くその一歩を踏み出した。




