贈り物
学園を出たレオンとヒルデは、そのままヴァルグラントへ向かうため、転移施設への道を歩いていた。
昼下がりの学園通りは、多くの学生達で賑わっている。
講義を終えた生徒達の笑い声。
訓練帰りの学生達の掛け声。
穏やかな日常が、そこには戻っていた。
そんな中――。
「おーい!! 待てよー!!」
後方から聞き慣れた声が響く。
レオンが振り返ると、手を振りながらニクス達が駆け寄って来るのが見えた。
「ニクス?」
「シンのとこ行くんだろ?」
軽く息を弾ませながら、ニクスは笑みを浮かべる。
「俺達も報告が終わったら顔を出そうって話してたんだ」
「そ、それに……」
ミレアがおずおずと口を開く。
少しだけ視線を逸らしながら、頬をほんのり染めていた。
「カーバンクル……私も少し興味がありますし……」
いつもは冷静沈着な彼女らしからぬ落ち着きのなさだった。
どこか期待を隠しきれていない様子に、レオンは思わず首を傾げる。
「そうか」
だが深く考えることはなく、素直に笑った。
「じゃあ一緒に行くか」
「はい」
ミレアは嬉しそうに頷いた。
こうして一行は揃ってヴァルグラントの転移施設へ向かうことになった。
歩きながら自然と旅の話になる。
「へぇ~、リュクシアってそんな感じだったのか」
ニクスが感心したように声を上げる。
「魔物と共同生活をしているなんて……凄いですね」
ミレアも驚きを隠せない様子だった。
「ドワーフかぁ……」
ファルガが腕を組みながら呟く。
「……行ってみたい」
リシェルも珍しく興味を示し、小さく呟いた。
旅の話に花が咲き、自然と笑みが零れる。
その時だった。
「あ……そう言えば……」
不意にレオンが立ち止まる。
「ん?」
ファルガが首を傾げた。
「どうした?」
そう問いかけながら、一瞬だけヒルデへ視線を向ける。
しかしヒルデは小さく首を横へ振った。
――違う。
そんな無言のやり取りだった。
「いや……リシェルに渡したい物があったんだった」
「……?」
突然名前を呼ばれ、リシェルの肩がぴくりと揺れる。
普段ほとんど感情を表に出さない彼女には珍しい反応だった。
「……私?」
「あぁ」
レオンは何気なく頷く。
その一言だけで、リシェルの視線がふっと泳いだ。
平静を装っている。
だが耳だけは僅かに赤く染まり、視線を逸らしたまま髪先を指で弄り始める。
その横では、ミレアもどこか落ち着かない様子で二人を見つめていた。
ニクスまで妙に真剣な顔をしている。
ファルガは腕を組んだまま、静かに成り行きを見守っていた。
そんな空気など露ほども気付かず、レオンは鞄へ手を入れる。
何を取り出すのか――。
場の空気が妙な緊張感に包まれた。
そして。
「これな」
レオンが取り出した瞬間、一同の動きが止まる。
「……デカっ」
ニクスが思わず声を漏らした。
レオンの手にあったのは、拳ほどもある巨大な魔石だった。
透き通るような氷色の輝きを放ち、魔力の濃さは一目で分かる。
「魔鉱岩の副産物なんだけどな」
レオンは何でもないように説明する。
「氷魔法を付与させて、航海中は貯蔵庫を冷やすのに使ってたんだけど――」
そう言うと、その巨大な魔石をリシェルへ差し出した。
「氷魔法を使うお前なら、有効活用できると思ってさ」
「……お前にやるよ」
「…………」
一瞬だけ、リシェルの時間が止まる。
数秒前まで赤かった耳も、すぅっと元の色へ戻っていった。
「……あ、うん」
静かに受け取る。
「……ありがと」
両手に収まる大きな魔石を見つめる。
魔力は申し分ない。
きっと相当な価値がある品なのだろう。
……だが。
ふわりと漂う、生臭い匂い。
魚や肉を冷やすために使われていたせいか、ほんのり保存庫の香りが染み付いている。
「…………」
「…………」
ミレアとニクスは何とも言えない表情で顔を見合わせた。
ファルガはついに堪えきれず、口元を押さえて肩を震わせる。
ヒルデは額に手を当て、小さくため息をついた。
「……やはり、こうなったか」
そんな心の声が聞こえてきそうな表情だった。
一方で。
「?」
レオンだけは周囲の反応の意味がまるで分からず、不思議そうに首を傾げている。
その天然ぶりに、一同はますます言葉を失うのだった。




