加工
ヘイルズは黙々と工具を動かし続けていた。
工房の中には、金属を削る乾いた音だけが一定のリズムで響く。
ガリ……ガリ……。
火花が散り、小さな削り屑が作業台へ積もっていく。
最初は人の頭ほどもあった魔鉱岩は、少しずつ、本当に少しずつ形を変えていった。
「……こんなに削るのか」
レオンが思わず呟く。
貴重な鉱石だとは聞いていたが、ここまで大胆に削り落とすとは思っていなかった。
やがてヘイルズは工具を置き、大きく息を吐いた。
「ふぅ……」
作業台の上に残っていたのは、卵ほどの大きさになった二つの結晶。
余分な不純物はすべて削ぎ落とされ、中心部だけが姿を現している。
淡い青白い光は先ほどまでとは比べ物にならないほど澄み切り、静かな存在感を放っていた。
「このくらいなら……二つ分は何とかなるじゃろう」
ヘイルズが満足そうに頷く。
「じゃが、ここから先が一番難しい。少しでも削りすぎれば駄目になる」
そう言うと、大切そうに布を掛けた。
「今日はここまでじゃ。また明日来い」
「船の支度もせにゃならんしの」
「分かった」
レオンが頷く。
「明日の昼頃でいいか?」
「あぁ。それまでには仕上げておこう」
短い返事だった。
「よろしくお願いします」
ユージンが丁寧に頭を下げる。
「ケンジャ、さっき話してた錬成店まで案内してくれる?」
「うむ」
ケンジャは軽く返事をすると、ひょいっとユージンの鞄へ飛び乗った。
新しい義手を握ったり開いたりしながら、肩をゆっくり回す。
「……やっぱ少し重いな」
「馴染むって言ってただろ?」
レオンが笑う。
「まぁな」
ケンジャも苦笑した。
そうして三人は、ヘイルズの工房を後にした。
◆
鉱山区画の大通り。
夕暮れが近づき、仕事を終えたドワーフ達が通りを行き交っていた。
酒場からは豪快な笑い声が漏れ、鍛冶場ではまだ槌音が鳴り響いている。
活気に満ちた街を歩いていると、不意に聞き慣れた声がした。
「あ」
レイだった。
その隣にはアッシュも立っている。
「皆さん、お疲れ様です」
レイが軽く会釈する。
「用事は済みましたか?」
「おう」
レオンが答えた、その時だった。
ユージンの鞄から、ケンジャがぴょこんと顔を出す。
新しくなった義手を自慢げに掲げた。
「見ろ、新型だ」
「おっ、ほんとだ」
アッシュが目を丸くする。
「前より少しごつくなってねぇか?」
「耐久性重視らしい」
ケンジャは義手を軽く振ってみせた。
「魔鉱岩の方も、明日の昼には加工が終わるそうだよ」
ユージンが補足する。
「そっか……」
アッシュは安心したように肩の力を抜いた。
「じゃあ、あとは宿戻って休むだけだな」
「いや」
レオンは首を横に振る。
「この後は錬成店に行く」
「錬成店ですか?」
レイが不思議そうに首を傾げる。
「うん」
ユージンが頷き、ケンジャが手に持っていた魔石を受け取る。
「この魔石に属性を付与してもらおうと思って」
夕陽を受け、白い結晶が淡く輝いた。
「……それって、俺達が持ち帰った魔鉱岩か?」
アッシュが目を細める。
「正確には削り落とした魔石だけどね」
ユージンは結晶を軽く掲げる。
「でも、かなり質が良いらしい」
「へぇ……」
アッシュが感心したように見つめる。
その時だった。
「……アッシュ」
レオンがふと呼び止める。
「ん?」
「後ろ」
「え?」
振り返る前に、アッシュは頭を掻いた。
「あぁ……」
困ったように苦笑する。
「勝手について来るんだよ」
全員の視線がその先へ向く。
そこには白いカーバンクルが、ちょこんと座っていた。
額の深紅の宝石を夕陽に輝かせながら、当然のようにアッシュの後ろを陣取っている。
しかも、どこか誇らしげだ。
尻尾は嬉しそうに左右へぱたぱた揺れている。
「……まさか」
ユージンが引きつった笑みを浮かべる。
「そのまま付いて来る気じゃないよね?」
「勘弁してくれよ……」
アッシュは遠い目をした。
「向こうで何て説明すりゃいいんだよ」
「……ディルク教官に相談するしかないな」
レオンが真顔で呟く。
「まぁ……」
ユージンも苦笑した。
「ケンジャのことも何とかしてくれたし、教官なら何か知ってるかもしれないね」
「本当ですか!」
レイの表情がぱっと明るくなる。
その場にしゃがみ込むと、優しくカーバンクルへ微笑みかけた。
「よかったですね」
「キュウ!」
カーバンクルは元気よく返事をすると、尻尾をぶんぶん振りながらアッシュの足へ頬を擦り寄せる。
「いや、懐く相手絶対間違えてるだろ……」
アッシュが苦笑する。
しかし当のカーバンクルは、まるで聞こえていないかのように満足そうな表情を浮かべるだけだった。
どうやら、もう離れる気はまったくないらしい。




