包囲網
長い洞窟を抜けた先。
遠くに見えていた小さな光が、次第に大きくなっていく。
「……出口だ」
先頭を歩いていたアッシュが、小さく呟いた。
全員の足取りは重い。
長時間の探索。
連戦に次ぐ連戦。
疲労は限界に近かった。
それでも、誰一人として立ち止まらない。
ようやく――帰れる。
その思いだけで、レオン達は一歩ずつ前へ進んでいく。
そして。
洞窟の外へ足を踏み出した瞬間。
「っ……!」
眩い朝日が視界を焼いた。
暗闇に慣れきった目には強すぎる光。
レオンは反射的に腕で目元を覆う。
一瞬、視界が真っ白に染まった。
ひゅう、と風が吹き抜ける。
湿った洞窟の空気ではない。
乾いた山の匂い。
冷たく澄んだ朝の風。
ようやく帰って来られた。
そう安堵しかけた――その時だった。
「……?」
違和感。
前を歩いていたアッシュの足が止まる。
隣のレイも、ヒルデも動かない。
いや。
三人とも、いつの間にか武器を構えていた。
「おい……」
アッシュの低い声。
レオンは目を細めながら周囲を見渡し――息を呑んだ。
「なっ……」
取り囲まれていた。
狼人。
猫人。
蜥蜴人。
牛人。
多種多様な亜人族の兵士達が、完全武装のままこちらへ武器を向けている。
数十人。
逃げ道はない。
張り詰めた空気が、肌を刺した。
その正面。
豪華な装飾が施された馬車が静かに停まっていた。
そして、その前に立つ二人のエルフ。
白銀の鎧。
腰に下げた細剣。
鋭い眼光。
ただ立っているだけだというのに、周囲の空気を支配する圧倒的な存在感。
片方のエルフが、冷たい視線を向けた。
「……何故、人間がこの国へ入り込んでいる?」
静かな声。
だが、その一言だけで空気が凍りつく。
問い掛けではない。
まるで罪人を裁くかのような、鋭い尋問だった。
誰もすぐには答えられない。
するとエルフは、今度は視線を横へ向けた。
そこには、洞窟周辺を管理していたドワーフ達が肩をすくめながら立っていた。
「貴様らも貴様らだ」
鋭い目が細くなる。
「何故もっと早く報告しなかった」
「い、いやぁ……だってよぉ」
ドワーフの一人が困ったように頭を掻く。
「悪い奴らじゃなさそうだったし……」
「そうそう。ちゃんと金も払ってたしな」
「若いのに頑張ってたしよぉ」
「……」
エルフは深く息を吐いた。
「貴様らは本当に危機感がないな」
呆れた声。
だが。
次の瞬間だった。
「……っ」
もう一人のエルフが、目を見開く。
その視線は、真っ直ぐレオンへ。
正確には――腰の剣へ向けられていた。
「貴様……」
空気が変わる。
殺気。
鋭い怒気が一瞬で周囲に広がった。
「その剣を……どこで手にした!!」
怒声が山に響き渡る。
兵士達がざわめいた。
「っ!?」
レオンは思わず自分の腰を見る。
そして気付いた。
怒鳴ったエルフの腰に差された剣。
ロップから譲り受けたラヴィーナの剣と、あまりにも似ていた。
同じ装飾。
同じ紋様。
刀身の形まで、ほとんど変わらない。
「……あ」
冷や汗が頬を伝う。
(やばい……)
頭の中で必死に言葉を探す。
ロップのことを話すか?
ラヴィーナのことを話すか?
だが、そんな話をして信じてもらえるのか。
そもそも――。
(説明できるのか……?)
横ではレイも顔を強張らせていた。
「レオンさん……かなりまずい状況では……?」
「わかってる……」
ヒルデも両手に魔法陣を展開し、アッシュは前へ半歩出る。
ユージンは咄嗟にケンジャの入った鞄を庇うように抱き寄せた。
そして。
「答えろ人間!!」
怒気を孕んだ叫び。
兵士達が一斉に武器を構え直す。
一触即発。
そんな時だった。
ガラガラガラ……
遠くから車輪の音が響く。
全員の視線がそちらへ向く。
街道の奥。
数台の荷馬車が砂煙を上げながらこちらへ向かって来ていた。
そして。
「おーい!!」
聞き覚えのある声が響く。
「ウェルフ!?」
荷馬車から身を乗り出していたのは、航海を共にした狼人の男だった。
さらに後ろには、多くの亜人族達の姿も見える。
ウェルフは周囲を見回すなり、眉をひそめた。
「やっぱ来てやがったか……!」
大きく息を吐く。
「王都の兵がドワーフ街に向かったって聞いて、急いで来たんだが……」
そして。
完全包囲されたレオン達。
怒気を放つ二人のエルフ。
武器を構える兵士達。
冷や汗を流すレオン。
その光景を見て、ウェルフは思わず頭を抱えた。
「……あー」
狼人の男は空を仰ぎ、
「思ったより面倒なことになってんな、これ……」
と、盛大なため息を吐いた。




