魔鉱岩探索④
レオン達は息を殺しながら前進していた。
足音一つ立てぬよう、慎重に岩場を渡る。
少し先では、ラヴァルシザーが巨大な鋏を擦り合わせ、不気味な音を響かせていた。
ガギ……ガギ……
フィアーオーク達も周囲を巡回するように歩き回り、時折鼻を鳴らして空気を嗅いでいる。
見つかれば終わり。
誰もがそう理解していた。
岩陰から岩陰へ。
ゆっくりと、少しずつ。
そしてついに、目的の場所へ辿り着く。
「……これか」
レオンが小さく呟いた。
岩壁から生えるように突き出した赤黒い鉱石。
内部では赤い光が脈動し、生き物の鼓動のように明滅している。
近くで見るほど異様な存在感だった。
アッシュが恐る恐る手を伸ばす。
「これを持って帰ればいいんだな?」
「あぁ……だが乱暴に扱うな」
肩の上のケンジャが低く言う。
「高純度の魔鉱岩だ。価値も高い。下手に砕けば台無しになる」
「なら……こうか?」
アッシュが力を込めて引っ張る。
しかし。
「……びくともしねぇ」
「根本まで岩壁と一体化してるみたいだね……」
ユージンが眉を寄せた。
レオンも剣の柄へ手を伸ばく。
「なら叩き割るしか――」
「待って!」
ユージンが慌てて声を上げた。
「こんな場所で剣を打ち込んだら、音で全部寄って来るよ!」
その言葉に全員が黙り込む。
熱風だけが吹き抜ける。
汗が顎を伝う。
時間もない。
冷却魔石の効果も永遠ではない。
焦りだけが募る。
その時だった。
「……一発だな」
静かな声。
ヒルデだった。
無表情のまま魔鉱岩を見つめている。
「強い衝撃を一点に叩き込めば外れる可能性がある」
そう言うと、右腕へ魔力を流し込んだ。
グググ……
骨が軋み、筋肉が変形していく。
皮膚が金属のような質感へ変わり、やがて右腕全体が巨大な杭打機――パイルバンカーへと姿を変えた。
「おぉ……」
アッシュが思わず息を呑む。
ヒルデは静かに構えた。
「撃てば確実に気付かれる。だから撃った瞬間、即撤退だ」
「……取れなかったら?」
レイが問う。
「その時は、もう一発」
「簡単に言うなよ……」
アッシュが乾いた笑みを浮かべた。
だが、他に手段はない。
レオンが剣を抜く。
「頼んだ、ヒルデ」
「僕達で時間を稼ぐ」
ユージンも杖を握った。
レイが小さく息を吐く。
「準備はできています」
「派手になりそうだな」
アッシュが笑う。
ヒルデは魔鉱岩へ狙いを定めた。
静寂。
遠くから悪精達の唸り声だけが聞こえる。
「――行くぞ」
ダンッッ!!
轟音。
凄まじい衝撃が地下空洞全体を揺らした。
岩壁が抉れ、破片が飛び散る。
しかし。
「っ……まだだ!」
魔鉱岩は大きく揺れただけで外れていない。
そして次の瞬間。
グルルルルルッ!!
悪精達が一斉に振り向いた。
「来るぞ!」
レオンが叫ぶ。
フィアーオーク達が咆哮を上げて突進する。
ラヴァルシザーも巨大な鋏を鳴らしながら迫り、黒いカーバンクル達が岩場を跳び回る。
「レイ! 右!」
「はい!」
銀閃。
レイが飛び掛かってきた黒いカーバンクルを迎え撃つ。
同時にアッシュがフィアーオークの棍棒を受け止めた。
ガギィィン!!
「クソ重ぇ!!」
「下がれ!」
レオンが横から斬り込む。
火花が散る。
だが硬い。
深く入らない。
「チッ!」
さらに別のカーバンクルが横を駆け抜ける。
「速――!」
「させません!」
レイの斬撃が閃き、黒い毛が宙を舞った。
だが、敵は多い。
その奥ではラヴァルシザーが地面を砕きながら迫ってきていた。
ゴゴゴゴ……
「ヒルデ!!」
レオンが叫ぶ。
ヒルデは無言で再びパイルバンカーへ魔力を集中する。
「……頼む」
ダンッッ!!
二発目。
轟音と共に岩壁が大きく崩れた。
土煙が舞う。
「取れたか!?」
ユージンが目を凝らす。
しかし。
「まだか!?」
魔鉱岩は半分ほど露出しただけだった。
あと少し。
本当にあと少し。
だが、その距離が遠い。
「チッ!」
アッシュがフィアーオークを蹴り飛ばす。
レオンも息を荒げる。
敵は増えていた。
さらに奥からも唸り声が近付いてくる。
「まずい……どんどん寄って来てる!」
ユージンの顔が青ざめる。
ケンジャも叫んだ。
「ヒルデ!! もう後がないぞ!!」
「……分かってる」
ヒルデが三度目の構えを取る。
その瞬間。
黒いカーバンクルが岩陰から飛び出した。
「ヒルデ!!」
レオンが反射的に飛び込む。
ガキィン!!
鋭い牙と剣が激突し、火花が散った。
凶暴な瞳。
喉元を狙う牙。
レオンは全身で押し返す。
「行けぇぇッ!!」
叫びが響く。
ヒルデの瞳が細くなる。
「――吹き飛べ」
ダンッッッッ!!
三度目の轟音。
衝撃が地下空洞を震わせる。
そして。
ゴガァァァンッ!!
ついに魔鉱岩が岩壁から外れ、地面へ転がり落ちた。
「取れた!!」
ユージンが歓声を上げる。




