魔鉱岩探索③
探索は、想像以上に過酷だった。
地下空洞に満ちる熱気は、ただそこにいるだけで体力を奪っていく。
ゴウゥゥゥ……
地面の裂け目から吹き上がる熱風が、生き物の吐息のように肌を焼いた。
汗が首筋を伝い、レオンは額を拭う。
「……まだ見つからねぇのか」
ぼやくように漏らすと、肩に乗るケンジャが低く返した。
「焦るな。こういう場所ほど、冷静さを失った奴から死ぬ」
「でも時間もねぇんだろ?」
先頭を警戒しながら歩くアッシュが振り返る。
「さっきの魔石だって、永遠に保つわけじゃねぇんだろ?」
「だから焦るなと言っておる」
ケンジャはそう言った。
だが、その声にはわずかな焦燥が滲んでいた。
それを誰もが感じ取っていた。
だからこそ、無駄口を叩く者はいない。
慎重に。
静かに。
魔物に気取られぬよう、六人は熱気漂う地下空洞を進んでいく。
遠くから獣の唸り声が響く度に足を止め、岩陰に身を潜めた。
ランタンの灯りも最低限。
視界の先を、巨大な影がゆっくりと横切っていく。
マグマの裂け目を這い回る赤黒い大蛇。
鋭い脚で岩壁を登る巨大な虫。
この地下世界そのものが、巨大な悪精の巣窟のようだった。
「……っ、はぁ……」
レイが小さく息を吐く。
顔色は優れない。
ユージンも汗を流し続け、呼吸が少し荒い。
ヒルデでさえ額に汗を浮かべていた。
限界が近づいている。
そんな時だった。
「……そろそろか」
ケンジャが呟き、義手へ手を伸ばした。
カチッ。
小さな音と共に外装が開く。
「二度目だ」
取り出されたのは、淡く青い光を宿した魔石。
次の瞬間。
ふわりと冷気が広がり、熱に焼かれていた身体を優しく包み込んだ。
「ぁ゛~~~~……」
アッシュが天を仰ぐ。
「生き返る……」
レイも安堵したように大きく息を吐いた。
「助かるよ……本当に」
ユージンは礼を言いながら、心配そうな目をケンジャへ向ける。
「ケンジャ、大丈夫?」
「……問題ない」
そう答える声は、いつもよりわずかに遅かった。
平然としているように見えて、ケンジャ自身も相当消耗している。
レオンは何も言わず、前を向いた。
見つけなければならない。
立ち止まっている余裕はない。
再び歩き出し、さらに奥へ。
その時――
「止まれ」
先頭のアッシュが手を上げた。
全員が即座に身を低くする。
前方。
巨大な岩場の向こうから、低い唸り声が響いていた。
レオン達は慎重に岩陰から覗き込む。
「……っ」
そこにいたのは、二体のラヴァルシザー。
巨大な鋏を持つ灼熱の悪精。
さらに、その周囲には四体のフィアーオーク。
赤黒い皮膚。
焼け爛れたような筋肉。
手には巨大な棍棒。
熱への耐性を持つ地下種の魔物達だ。
そして――
「……カーバンクル?」
レイが目を見開いた。
街で見た精霊とよく似ている。
だが、違う。
全身を覆う黒い体毛。
獲物を噛み裂く鋭い牙。
額には琥珀色の宝石。
低く唸るその姿に、愛らしさなど欠片もない。
悪精化したカーバンクルだった。
フィアーオークの肩に乗り、獰猛な目で周囲を見回している。
「なんだよあれ……」
アッシュが顔をしかめた。
「街にいた奴と別物じゃねぇか」
「恐らく悪精化した個体だろうね……」
ユージンが声を潜めて答える。
数が多い。
しかも、この狭い地形。
戦闘になれば確実に囲まれる。
レオンは小声で呟いた。
「……引くか?」
「だな……」
アッシュも同意しかけた。
その時だった。
「……待て」
ケンジャが小さく呟く。
「……?」
皆が視線を向ける。
ケンジャは悪精達のさらに奥。
岩壁の隙間を指差していた。
そこには、無色透明の水晶のような鉱石が埋まっている。
だが、ただの鉱石ではない。
内部から脈打つように、淡い光が規則的に明滅していた。
それを見た瞬間。
ケンジャの目が大きく見開かれる。
「――あった」
「っ!?」
全員の視線が集中する。
ケンジャは確信に満ちた声で呟いた。
「あれだ……」
その声には、長い探索の果てにようやく辿り着いた歓喜が滲んでいた。
そして。
「――魔鉱岩だ」




