道具調達
山道を下りきった先で、レオン達の視界が大きく開けた。
岩山を削るように築かれた巨大な街。
無骨な石造りの建物が並び、その煙突からは絶えず白い煙が立ち上っている。
そして――。
「……っ」
街へ足を踏み入れた瞬間、レオンは思わず目を瞬かせた。
――カン!!
――カン! カン!!
――ガァンッ!!
耳を打つ轟音。
あちこちの工房から響く金属音が、まるで街全体を震わせているかのようだった。
赤く焼けた鉄。
飛び散る火花。
炉から吹き出す熱風。
汗だくのドワーフ達が巨大な槌を振り上げ、全身を使って鉄を叩いている。
その一撃一撃には凄まじい迫力があった。
「そこだぁ!」
「温度を落とすな!」
「次の鋼材持ってこい!」
怒号にも似た声が飛び交う。
だが不思議と険悪な雰囲気ではない。
むしろ、それがこの街の日常なのだろう。
職人達は皆、生き生きと働いていた。
「……ここがドワーフの街か……」
レオンは周囲を見渡しながら静かに呟く。
その視線の先では、工房だけではなく別の意味でも賑わいを見せていた。
「ガハハハハッ!!」
「飲め飲めぇ!!」
「今日の鉱石掘りは地獄だったぞぉ!!」
酒場から響く豪快な笑い声。
まだ日が完全に落ちてもいないというのに、すでに宴会が始まっていた。
肩を組んで歌う者。
机を叩きながら大笑いする者。
酔った勢いで取っ組み合いを始める者。
そのどれもが声量だけで周囲を圧倒している。
「随分騒がしいな……」
アッシュが顔をしかめながら片耳を押さえた。
「耳がどうにかなりそうだ」
「静かな場所を探す方が難しそうだね」
ユージンが苦笑する。
彼の言葉にレオンも小さく頷いた。
確かにここまで賑やかな街は初めてかもしれない。
活気という言葉だけでは足りない。
街全体が熱を帯び、生き物のように脈打っている。
そんな印象だった。
その時、周囲を見回していたヒルデが口を開く。
「私は先に宿を探そう」
そう言って隣に立つレイへ視線を向けた。
「レイも来るか?」
「……えぇ」
レイは静かに頷く。
「宿の確保は早い方が良いでしょうし」
「頼む」
レオンが短く答える。
ヒルデとレイはそれ以上言葉を交わすことなく、人混みの中へ消えていった。
残されたのはレオン、ユージン、アッシュの三人。
そしてユージンの鞄の中にいるケンジャだった。
「それじゃあ僕達は探索の準備かな」
ユージンが背負っていた荷物を持ち直す。
「洞窟探索なら灯りや縄は必要だし、状況によっては採掘道具も欲しいね」
「あー……」
アッシュが腕を組みながら考える。
「全員分となると荷物も結構な量になるな」
そう言ってレオンへ視線を向けた。
「俺とレオンで集めるか?」
「あぁ、それでいい」
レオンは即座に頷いた。
「……分かった」
ユージンも納得したように笑う。
「助かるよ」
そう言いかけた、その時だった。
もぞり、と。
ユージンの背中の鞄が小さく揺れた。
「ん?」
ユージンが首を傾げる。
次の瞬間。
ひょこっ。
鞄の口から小さな顔が現れた。
「私も手伝うぞ」
ケンジャだった。
「……珍しいな」
レオンが少し驚いたように言う。
普段なら面倒事を避けそうな彼が、自ら協力を申し出るとは思わなかった。
だがケンジャは鼻を鳴らした。
「その代わりだ」
「ちょっと寄り道して欲しい場所がある」
「寄り道?」
ユージンが首を傾げる。
ケンジャは小さく頷いた。
「あぁ」
「街外れに腕の良い奴が住んでいる」
「そいつに会いたい」
「腕の良い奴?」
アッシュが眉を上げる。
「鍛冶師か?」
だがケンジャは意味深に口元を歪めるだけだった。
「まぁ、そんなところだ」
それ以上は語らない。
レオン達は顔を見合わせた。
少しだけ迷う空気が流れる。
だが。
「……別に構わないんじゃないか?」
最初に口を開いたのはレオンだった。
「あぁ」
アッシュも同意する。
「どうせ探索前に時間はあるしな」
そしてケンジャへ視線を向けた。
「ユージンも疲れてるだろ。あんまり無理はさせんなよ」
「分かっている」
ケンジャは即答した。
そのあまりにも真面目な返答に、アッシュが思わず目を丸くする。
「お前、ちゃんと気にしてたんだな」
「当然だ」
ケンジャは胸を張った。
「倒れられると運搬役が居なくなる」
「最低だなお前」
レオンが呆れた声を漏らす。
アッシュも吹き出した。
ユージンだけは苦笑しながら肩を竦める。
「否定できないのが困るね」
その言葉にケンジャは満足そうに頷いた。
夕暮れが近づくドワーフの街。
工房から響く鉄槌の音。
酒場から溢れる笑い声。
熱気と活気に満ちた喧騒の中で、一行はそれぞれの目的のために動き始める。
宿を探す者。
探索の準備を進める者。
そして――ケンジャに導かれ、街外れへ向かう者。
まだ誰も知らない出会いが、その先で待っているとも知らずに。




