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ウェルフとの別れ


 潮風の香りが残る石畳の街を抜け、レオン達は街の反対側にある大門へと辿り着いていた。


 背後には活気ある港の喧騒。

 前方には深く広がる大森林。


 まるで文明と自然の境界線だった。


 巨大な木製の門の前で、一人の獣人が立ち止まる。


 ウェルフだった。


「……悪ぃな。俺達が案内できるのはここまでだ」


 その後ろには、船で世話になった亜人達が並んでいた。


 獣人、狼人、猫人、熊人。


 種族は様々だが、皆どこか名残惜しそうな表情を浮かべている。


 レオンは小さく頷いた。


「あぁ。ここまでありがとう」


「気にすんなって」


 ウェルフは照れ臭そうに頭を掻いた。


 すると後ろから亜人達が次々と声を上げる。


「おーい! 死ぬんじゃねぇぞー!」


「帰りの船は任せとけ!」


「ちゃんと土産持ってこいよ!」


「酒だ! 酒!」


「お前はそれしかねぇのか!」


 途端に始まる騒がしいやり取り。


 相変わらずだな、とアッシュが苦笑する。


「ほんと賑やかな連中だな」


「悪い人達じゃありませんけどね」


 レイも柔らかく微笑んだ。


 ユージンの鞄から顔だけ出していたケンジャも、ふんふんと鼻を鳴らす。


「私的にはここは居心地がよかった…隠れる必要がないからな」


「…置いてってやろうか?」


 アッシュが呆れたように言うと、ケンジャは胸を張った。


「バカ言え…研究を投げうってまで住まうとは思わん」


「はいはい」


 軽く流され、ケンジャは不満そうに頬を膨らませた。


 そんなやり取りを眺めながら、ウェルフは森の奥へ視線を向ける。


「この森を真っ直ぐ進め」


 指差す先には、鬱蒼とした樹海が広がっていた。


「森を抜けりゃ山岳地帯だ」


「その麓にドワーフ達の街がある」


「まずはそこで装備を整えるといい」


 今回の目的地。


 魔鉱岩が眠るとされる大洞窟。


 その探索には専門の道具が必要になる。


 そして、その道具を最も扱うのがドワーフ達だった。


「……ドワーフ」


 レイが静かに呟く。


「話には聞いています」


「鍛冶と鉱石加工の名手」


「一方で、人間嫌いも多いとか」


「まぁ否定はできねぇな」


 近くにいた獣人が肩を竦める。


「特にリュクシアは亜人の国だからな」


「人間に良い感情持ってねぇ奴もいる」


 その言葉にヒルデが少しだけ表情を曇らせた。


 リュクシアへ来てから何度か感じた視線。


 露骨に敵意を向けてくる者こそ少なかったが、人間というだけで警戒されることも珍しくなかった。


 ましてやドワーフ達は職人気質で頑固者が多い。


 決して楽な相手ではないだろう。


「だが安心しろ」


 ウェルフが笑う。


「物を買いに来た客を追い返すほど狭量な連中じゃねぇ」


「特に腕の良い職人ほど客を大事にする」


「腕に誇りを持っているからこそ、だ」


「なるほど」


 ユージンは納得したように頷いた。


 すると別の亜人が何かを思い出したように腰の袋を漁る。


「あ、そうだ」


 取り出されたのは一本の酒瓶だった。


 陽光を受けて琥珀色の液体が輝く。


「これ持ってけ」


 ユージンが受け取る。


「……酒?」


「ゼルガリア産の上物だ」


 亜人はニヤリと笑った。


「ドワーフ共は酒に目がねぇ」


「下手な金貨より効くぞ」


「随分分かりやすいな」


 アッシュが呆れ顔を浮かべる。


「職人なんてそんなもんだ」


 ウェルフも苦笑した。


「気に入られりゃ話は早い」


 レオンは酒瓶へ視線を落とす。


 シンの義足。


 その核となる魔鉱岩。


 それを手に入れるための旅。


 仲間のための旅だった。


 だからこそ失敗はできない。


「……分かった」


 レオンは静かに頷く。


「有効に使わせてもらう」


「おう」


 ウェルフは満足そうに笑った。


 そして最後に、仲間へ向けるような気安さで手を上げる。


「無事に戻ってこい」


 短い言葉だった。


 だが、その中には心配も信頼も込められていた。


 レオンも同じように手を上げる。


「あぁ」


 それだけで十分だった。


 言葉を重ねる必要はない。


 互いに背中を預けて戦った仲間なのだから。


 レオン達は門へ向かう。


 ギギギ……と重々しい音を立てながら開かれた門の先。


 そこには深い森が広がっていた。


 見上げるほど高い巨木。


 覆い隠す枝葉。


 差し込む木漏れ日。


 風が吹くたび葉が揺れ、森全体が囁くような音を立てる。


 レオンはその景色を見つめる。


 未知の土地。


 未知の国。


 未知の鉱石。


 そして、仲間を再び立たせるための希望。


 ユージンが隣に並ぶ。


「行こう、レオン」


「あぁ」


 レイ、アッシュ、ヒルデも続く。


 鞄の中からケンジャが勢いよく顔を出した。


「冒険じゃー!!」


「静かにしろ」


「むぎゃっ!?」


 アッシュに頭を押し込まれ、悲鳴が響く。


 その声に思わず皆が笑った。


 少しだけ肩の力が抜ける。


 そして――。


 レオン達は歩き出した。


 シンの未来を繋ぐために。


 魔鉱岩が眠るという山を目指して。


 深き森の、その先へ。


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