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役割り

重厚な扉がゆっくりと閉じる。

ゴォン――という重い音が廊下に響き、やがて静寂の中へ溶けていった。

王の間を包んでいた張り詰めた空気から解放され、三人は並んで歩き出す。

長い回廊。

高い天井を支える白い柱が等間隔に並び、窓から差し込む陽光が床に細長い影を落としていた。

先ほどまで国家の命運を語っていたとは思えないほど、穏やかな時間が流れている。

そんな中、最初に口を開いたのはカリファだった。

「……とりあえず、私はバルディオスからね」

軽く髪をかき上げながら小さく息を吐く。

「既に何班か調査隊は送り込んでいるけど、これといった成果は出ていないわ」

「ふむ……」

ディルクが短く相槌を打つ。

カリファは少し表情を曇らせた。

「ヒルデ達が捕らえた捕虜も結局自害してしまったし……」

思い出すだけでも気分の良い話ではない。

「敵勢力の規模も目的も不明。今のところ分かっているのは、裏で誰かが動いているという事実だけね」

「一筋縄ではいかぬ相手か」

ディルクが顎に手を当てる。

「こちらも魔装兵器獣の解析を進める必要がある」

ゼルガリアから回収された残骸。

通常では説明のつかない再稼働現象。

解明しなければならない問題は山積みだった。

しかし――

「……いや」

ディルクは小さく首を振る。

「まずは生徒達の方が先だな」

その言葉にファルガが思わず吹き出した。

「おいおい」

肩を揺らしながら笑う。

「珍しく優先順位がはっきりしてるじゃねぇか」

「当然だ」

ディルクは即答した。

「無事に帰還したとはいえ、彼らは戦場を経験した直後だ」

その表情は真剣そのものだった。

「肉体的な確認はもちろん、精神面も見なければならん」

「特に今回の戦いは学生が経験するには重すぎる」

「……」

ファルガは少しだけ目を細めた。

そして小さく笑う。

「相変わらずだな、お前は」

「貴様と一緒にするな」

間髪入れない返答。

そのあまりの速さにカリファが思わず吹き出した。

「ふふっ」

「本当に仲が良いわね」

「誰がだ!」

「誰がだよ!」

見事に声が重なった。

今度はカリファが声を上げて笑う。

その様子を見て、ファルガは肩を竦めた。

「ま、俺の方は少し時間ができそうだからな」

先ほどまでの笑みを引っ込める。

「シンの鍛錬に付き合うつもりだ」

「あいつ、まだ武技を自分のものにできてねぇ」

視線を前に向けたまま続ける。

「今のうちに叩き込んどかねぇと次で死ぬ」

軽い口調。

だが、その言葉の重みを三人とも理解していた。

戦場とはそういう場所だ。

少しの未熟さが命を奪う。

少しの油断が仲間を失わせる。

だからこそ教える。

だからこそ鍛える。

それが先に戦場を知った者の責任だった。

「……あなた達」

カリファが呆れたように言う。

「いつからそんなに子煩悩になったのかしら?」

「勘違いするな」

ディルクが即座に反論する。

「私は教師として当然の責務を果たしているだけだ」

「こいつと一緒にされては困る」

「はいはい」

ファルガが適当に流す。

「どっちも大差ねぇよ」

「……貴様な」

ディルクの眉がぴくりと動く。

だが反論する気も失せたのか、小さくため息を吐いた。

しばらく三人は無言で歩く。

窓から差し込む陽光が廊下を照らしていた。

その静寂の中で、ふとファルガが口を開く。

「そういや」

何気ない調子だった。

「レオン達から連絡は来てるのか?」

ディルクは首を横に振る。

「いや」

「恐らく今は海の上だろう」

「リュクシアまでの航路を考えれば、当分は通信も難しい」

「……そうか」

ファルガは小さく息を吐いた。

どこか安心したような表情だった。

「あいつなら大丈夫だろ」

「……あぁ」

ディルクも静かに頷く。

短い返答。

だが、その声音には確かな信頼があった。

レオン。

アッシュ。

レイ。

ユージン。

それぞれ未熟な部分はある。

だが同時に、彼らは幾つもの死線を越えてきた。

もう守られるだけの子供ではない。

自らの意志で前へ進む冒険者たちだ。

やがて三人は廊下の分岐点へ辿り着く。

自然と足が止まった。

それぞれが進むべき道が違う。

背負う役割も違う。

「じゃあ私は情報整理に戻るわ」

カリファが軽く手を振る。

「何か分かったら共有する」

「頼む」

ディルクが頷いた。

「無茶するなよ?」

ファルガが言う。

カリファはくすりと笑った。

「それは私の台詞よ」

そう言い残し、別の回廊へ消えていく。

残された二人。

短い沈黙。

「……じゃあな」

ファルガが背を向ける。

「お前も無理はするな」

「貴様に言われる筋合いはない」

「ははっ、違いねぇ」

豪快に笑いながら歩き出す。

その背中をディルクは一瞬だけ見送った。

そして自らも歩き出す。

研究者として。

教師として。

王国の剣として。

三人は別々の道を進む。

前線。

研究。

情報。

役割は違う。

だが見据える先は同じだった。

アルケイアの真意。

魔装兵器獣の謎。

そして、その背後で蠢く正体不明の存在。

まだ誰も、その全貌を知らない。

だからこそ動く。

静かに。

確実に。

気付かぬうちに――

戦いは既に始まっていたのだから。

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