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ルーク王

三人は玉座の前へと進み出ると、赤い絨毯の上で静かに膝をついた。

広大な謁見の間には重苦しい静寂が満ちている。

左右に並ぶ近衛騎士たち。

後方に控える文官たち。

誰一人として口を開く者はいない。

この場の中心にいるのは、ただ一人。

王国ルミナリアの頂点に立つ男だけだった。

やがて玉座から低く威厳ある声が響く。

「――面を上げよ」

三人はゆっくりと顔を上げた。

高く据えられた玉座。

そこに座しているのは、ルミナリア国王ルーク。

年齢を重ねてもなお衰えを感じさせぬ鋭い眼光。

王冠よりも、その瞳に宿る知性と覚悟こそが王たる威厳を形作っていた。

「久しいな、ディルク、ファルガ、カリファ」

穏やかな声だった。

だが、その一言だけで広間全体の空気を支配する力がある。

「こうして三人が揃うのは……随分と久しぶりになるか」

「はっ」

ディルクが胸に手を当てる。

「陛下におかれましては、ご健勝のご様子。何よりにございます」

するとルーク王は小さく笑った。

「相変わらず堅いな」

軽く手を振る。

「形式ばった挨拶はよい」

その言葉だけで張り詰めていた空気がわずかに和らぐ。

だが次の瞬間。

王の表情から柔らかさが消えた。

「此度は、貴様らの力を借りるために呼んだ」

空気が変わる。

謁見の間にいた全員が、その一言の重みを理解していた。

「既に耳には入っているだろう」

ルーク王は静かに告げる。

「アルケイアによるゼルガリア侵攻についてだ」

その名が発せられた瞬間。

広間に緊張が走った。

ルーク王は続ける。

「だが――」

一拍置く。

「余は、この戦に違和感を覚えている」

ディルクたちは黙って耳を傾ける。

「……違和感、ですか」

静かに問いかけたのはカリファだった。

「ああ」

王は頷く。

「アルケイアは決して愚かな国家ではない」

その言葉には確信があった。

長年、一国を治め続けてきた王だからこそ分かる。

敵国の力量。

敵国の思考。

敵国の癖。

「それにも関わらず――」

ルーク王の目が鋭く細められる。

「エルナディア」

「シークナス」

「そして我がルミナリア」

「三国からの警告と勧告をことごとく無視している」

その言葉にファルガが眉をひそめた。

「普通に考えりゃ引く場面だな」

「その通りだ」

王は即座に肯定した。

「仮に魔装兵器獣という切り札を保有していたとしても、三国を敵に回すのは愚策でしかない」

「勝算があるにせよ無いにせよ……理屈が通らん」

「……」

ディルクの目が静かに細まる。

彼もまた同じ違和感を抱いていた。

そして王はさらに続けた。

「加えて、もう一つ」

広間の空気が張り詰める。

「そもそも――なぜゼルガリアなのか」

その問いに誰も答えない。

王もまた答えを求めているわけではなかった。

「領土か」

「資源か」

「あるいは政治的圧力か」

「どれも決定打に欠ける」

ルーク王は腕を組んだ。

「戦争とは利益のために行うものだ」

「だが今回の侵攻には、その利益が見えてこない」

「……確かに」

カリファが小さく頷く。

「利の見えない戦ほど不気味なものはありません」

「うむ」

王は静かに立ち上がった。

それだけで空気がさらに重くなる。

王座から見下ろすその姿は、一国の王というより戦場を見据える将軍そのものだった。

「そして極めつけがこれだ」

王の視線がディルクへ向く。

「ゼルガリアで確認された魔装兵器獣の再稼働」

ディルクの表情がわずかに変わる。

「……既に報告は届いておりましたか」

「当然だ」

ルーク王は即答する。

「死したはずの兵器が再び動き出す」

「そんな現象を見過ごせるほど余は楽観的ではない」

静寂。

誰も言葉を挟まない。

「常識では説明がつかぬ」

王は断言した。

「ゆえに余は考えを改めた」

その声には確信があった。

「これは単なる戦争ではない」

広間の全員が息を呑む。

「――背後に別の意図が存在する」

その言葉は推測ではない。

王として積み上げてきた経験から導き出された結論だった。

しばし沈黙が落ちる。

やがてルーク王は静かに口を開いた。

「ゆえに余は、この戦を通常の戦争として扱うつもりはない」

鋭い視線が三人を射抜く。

「どのような事態が起ころうとも対応できるよう備える」

「想定外を想定しろ」

「最悪を想定しろ」

「そして万全の状態で臨め」

王命だった。

だが同時に、歴戦の英雄たちへの信頼でもあった。

「ディルク」

「はっ」

「魔装兵器獣に関する調査および対抗策の構築を任せる」

「承知しました」

「ファルガ」

「おう」

「前線部隊の統率、および機動戦力の中核となれ」

ファルガは不敵に笑う。

「任せとけ」

「カリファ」

「はい」

「情報収集と解析だ」

「敵の意図を暴け」

「仰せのままに」

三人の返答を聞き届けると、ルーク王は満足そうに頷いた。

そして最後に。

王は玉座の前に立つ三人だけでなく、この場にいる全員へ向けて言葉を放つ。

「皆、気をつけよ」

静かな声だった。

しかし広間の隅々まで響き渡る。

「ルミナリアの刃を総動員する」

王国最高戦力。

騎士団。

魔導師。

諜報員。

研究者。

あらゆる力を結集するという宣言だった。

「来るべき時に備えよ」

王の言葉と共に、広間の空気がさらに引き締まる。

それは戦争開始の宣言ではない。

勝利の号令でもない。

未知なる脅威に対する警鐘。

王国そのものが、得体の知れない闇へと剣を向ける瞬間だった。

そして今――

ルミナリアもまた、静かに動き始めるのだった。

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