価値のない才能
教室の空気は、重かった。
静かではない。
むしろ、ざわついている。
だがそのざわめきは、どこか“選別する側”の余裕を含んでいた。
レオンは席に座ったまま、前を見ていた。
背中に視線が刺さる。
気にしない。
そう決めていた。
だが——
「無属性ってマジかよ」
「初めて見た」
「いるんだな、そういうの」
小さな声が、あえて聞こえるように届く。
無視する。
できる。
はずだった。
扉が開く。
黒い服の大人が1人入ってくる。
視線だけで、教室が静まる。
「…ディルクだ授業を始める」
短く言う。
「本日は基礎。魔力の制御だ」
机の上に、杖が現れる。
細く、均整の取れた形。
「魔法は自分の魔力を器にしマナを制御し扱う技術だ」
淡々とした説明。
「まずは留めろ」
それだけだった。
生徒たちが杖を取る。
迷いがない。
慣れている。
レオンも、遅れてそれを握る。
(……流れ)
適性検査の時の感覚が、蘇る。
あの水晶の中で、“何か”が揺れた。
掴めなかったもの。
形にならなかったもの。
「杖先に集中させろ」
ディルクの声。
それに従い、意識を向ける。
体の内側。
確かに、ある。
流れているもの。
熱にも、風にも似ていない。
ただ——
(止まらない)
流れている。
勝手に。
一定じゃない。
まとまらない。
捕まえようとすると、逃げる。
押し込もうとすると、散る。
「……っ」
もう一度。
意識を強く向ける。
押さえつけるように。
閉じ込めるように。
だが——
“抜ける”。
指の間から砂がこぼれるように、すり抜けていく。
杖の先は、何も変わらない。
「……はは」
笑い声。
抑えきれていない。
「全然じゃん」
「何してんの?」
視線が集まる。
嘲り。
好奇。
明確な“下”。
レオンは顔を上げない。
ただ、杖を握る。
強く。




