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復興と船出の準備

ロップと別れた後。

 レオン達は復興の進む街をゆっくりと歩いていた。

 崩れた建物。

 積み上げられた瓦礫。

 砕けた石畳。

 戦いの傷跡は今なお街の至るところに残されている。

 だが、それでも。

 人々は前を向いていた。

 大工達が木材を運び、兵士達が警備を行い、亜人達とルナミリアの生徒達が協力して復旧作業を進めている。

 破壊された街並みの中に、少しずつ日常が戻り始めていた。

 その光景を眺めながら歩いていると――

「レオン!」

 聞き覚えのある声が飛んできた。

 振り返る。

 そこにはレイが立っていた。

 額には汗が滲み、制服の袖や靴には土埃が付いている。

 どうやら朝から作業を手伝っていたらしい。

 レオンの姿を見るなり、レイはほっとしたように表情を緩めた。

「無事だったんですね」

「ああ」

 レオンが頷く。

 するとレイは安堵したのも束の間、すぐに真面目な表情へ戻った。

「申し訳ありませんが……少し手を貸していただけませんか?」

 そう言って指差した先には、大きく崩壊した建物があった。

 数人が瓦礫を運んでいるが、明らかに人手が足りていない。

「運搬作業をしているんですが、なかなか終わらなくて……」

「おっ、いいじゃねぇか」

 真っ先に反応したのはアッシュだった。

 拳を握り、肩を回す。

「ちょうど体動かしたかったんだよ」

 戦いが終わってからというもの、まともに身体を動かしていなかった。

 むしろ歓迎と言わんばかりの顔である。

 そしてレオンへ振り返った。

「レオン、お前らはどうする?」

 レオンは少し考える。

 本来の目的はまだ終わっていない。

 いや、正確には――これから始まると言うべきだろう。

 リュクシアへ向かう準備。

 そのために確認しておきたいことがある。

「俺はこのまま用事を済ませる」

 そう答えた。

「あとで合流するよ」

「了解」

 アッシュはニヤリと笑った。

「サボるなよ?」

「お前じゃないんだから」

「言うようになったな」

 二人の軽口に、レイが思わず苦笑する。

 隣でリシェルも小さく息を吐いた。

「……行きましょう」

「ああ」

 アッシュが手を上げる。

「じゃあ後でな!」

 レイとアッシュ、そしてリシェルの三人は瓦礫の山へ向かっていった。

 残されたのはレオン、ユージン、そしてケンジャだけ。

 一瞬だけ周囲の喧騒が遠く感じられる。

 その時だった。

「やはり、ここにいましたか」

 落ち着いた女性の声が響く。

 レオン達が振り返る。

 そこに立っていたのはセリス王女だった。

 護衛を伴ってはいるが、その姿は昨日までと変わらず凛としている。

 戦禍の残る街の中でも、その存在感は自然と周囲の目を引いていた。

「セリス王女」

 ユージンが軽く会釈する。

 セリスはレオンへ視線を向けた。

 真っ直ぐな眼差しだった。

「昨晩の戦い、見事でした」

 静かな声。

 しかしその言葉には深い感謝が込められていた。

「魔装兵器獣が王都へ侵攻していたなら、多くの命が失われていたでしょう」

 一歩前へ出る。

「あなた方がいなければ、この国の未来はなかったかもしれません」

 そして王女は深々と頭を下げた。

「ゼルガリアを代表して、心より感謝いたします」

 王族からの礼。

 周囲にいた兵士達も驚いたような顔を見せる。

 だがレオンは困ったように頭を掻いた。

「……俺一人じゃない」

 少し照れ臭そうに言う。

「皆で戦った結果だ」

 セリスは微笑んだ。

「ええ。もちろんルナミリアの皆様にも感謝しております」

 その表情はどこか柔らかい。

 そして続けた。

「ですから、ぜひお礼をさせてください」

 その言葉を待っていたかのようにユージンが前へ出た。

「それなら、ちょうどお願いしたいことがあるんです」

 セリスが首を傾げる。

 ユージンはここまでの事情を説明した。

 魔鉱岩の存在。

 そしてそれを必要としていること。

 さらにリュクシアへ向かわなければならない理由。

 セリスは最後まで静かに耳を傾けていた。

「なるほど……」

 話を聞き終えると、少しだけ考え込む。

 やがて答えた。

「船の手配なら問題ありません」

 即答だった。

「港も徐々に機能を取り戻しています。優先的に準備させましょう」

「助かります」

 ユージンが安堵したように微笑む。

 だがセリスの表情にはまだ懸念が残っていた。

「ただ……」

 僅かに眉を寄せる。

「船員の確保が難しいですね」

 戦後の混乱。

 各地で人手不足が起きている。

 長距離航海となれば尚更だった。

「熟練した船員は今ほとんど復旧作業に回っています」

「それは確かに困ったね」

 ユージンも腕を組む。

 船があっても動かせなければ意味がない。

 そんな空気が流れた、その時。

「その話なら心配いらねぇ」

 低く力強い声が響いた。

 聞き覚えのある声。

 レオン達が振り返る。

 そこに立っていたのはウェルフだった。

 堂々と腕を組み、いつもの豪快な笑みを浮かべている。

「ウェルフ」

 レオンが目を見開く。

 その背後には数人の亜人達の姿があった。

 大柄な獣人。

 鋭い目付きの鳥人。

 海風に焼けた肌を持つ男達。

 それぞれ雰囲気は違う。

 だが共通していることが一つだけあった。

 全員が場数を踏んできた戦士の顔をしている。

「声かけといた連中だ」

 ウェルフが親指で後ろを示した。

「元船乗りもいるし、航海経験者もいる」

 ニヤリと笑う。

「腕も立つぜ」

 ユージンの顔に驚きが浮かぶ。

「いつの間に……」

「ロップから聞いたんだよ」

 ウェルフは肩をすくめた。

「お前らがリュクシアへ行くってな」

 セリスも思わず目を丸くする。

「ウェルフ……あなた……」

「恩は返す主義なんでな」

 その言葉はあまりにも自然だった。

 まるで当然のことを言っているかのように。

 そして視線がレオンへ向く。

 豪快な笑みは少しだけ消えていた。

「ラヴィーナの分も含めてな」

 静かな声だった。

 一瞬だけ風が吹き抜ける。

 誰も言葉を発しなかった。

 だが、それだけで十分だった。

 レオンは何も言わず、小さく頷く。

 ウェルフもそれ以上は語らない。

 代わりにユージンが柔らかな笑みを浮かべた。

「……これで全部揃ったね」

 船。

 船員。

 目的地。

 必要なものは、ようやく揃った。

 レオンは空を見上げる。

 戦いの煙は消え、青空が広がっていた。

 ここまで多くの人に助けられてきた。

 仲間。

 友人。

 そして旅の途中で出会った人々。

 その繋がりが、今の自分達を前へ押してくれている。

 レオンはゆっくりと視線を戻した。

「……ああ」

 静かに頷く。

 その目には確かな意志が宿っていた。

「行けるな」

 次なる目的地――リュクシア。

 まだ見ぬ未来へ向かう航路が、今ようやく開かれようとしていた。

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