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ゼルガリア防衛戦④

「――かかれェッ!!」

 セリスの裂帛の号令が、戦場の空気を切り裂いた。

 その瞬間だった。

 ゼルガリア軍が一斉に駆け出す。

 土煙が舞い上がり、兵士たちの雄叫びが響く。

 先頭を走るのはレオンたちだった。

 レオン。

 アッシュ。

 レイ。

 ヒルデ。

 誰一人として足を止めない。

 目指す先はただ一つ。

 王都を蹂躙する巨大な怪物――魔装兵器獣。

「燃え尽きろォォッ!!」

 後方からニクスの怒声が轟く。

 放たれた灼熱の奔流が大地を焼きながら魔装兵器獣へ襲い掛かった。

「……穿て」

 続いてリシェルが静かに呟く。

 無数の氷槍が空中に展開され、一斉に降り注ぐ。

 炎と氷。

 相反する二つの属性が同時に怪物を飲み込んだ。

 轟音。

 爆煙。

 砕け散る氷片。

 しかし――

「……嘘だろ」

 アッシュが顔を歪めた。

 確かな直撃。

 それにも関わらず、魔装兵器獣は歩みを止めない。

 焼け焦げた肉。

 凍り付いた外殻。

 それでもなお。

 まるで何も感じていないかのように前進を続けていた。

 痛覚がない。

 苦痛がない。

 ただ命令だけで動く兵器。

 それが何よりも厄介だった。

◇◇◇

 一方その頃。

 王都側では魔物の残党掃討を終えた兵士や生徒たちが、一人の少女の元へ集まっていた。

「ミレアちゃん!」

 息を切らした生徒が叫ぶ。

「さっきのやつ……もう一回できるか!?」

「土魔法使える奴ら、片っ端から集めたぞ!」

 ミレアは振り返った。

 そこには即席で編成された部隊がいた。

 ルミナリアの生徒。

 ゼルガリアの兵士。

 皆満身創痍だった。

 服は汚れ、顔には疲労が滲んでいる。

 それでも。

 誰も諦めてはいなかった。

 ミレアは静かに目を閉じる。

 深く息を吸い。

 杖を握り直した。

「……やります」

 小さく、しかし力強く頷く。

 魔導書が開かれる。

 ページが風もないのに捲れ上がった。

「――リンク」

 瞬間。

 意識が広がる。

 まるで無数の糸が伸びていくように。

 一人。

 また一人。

 周囲の魔法使いたちと精神が繋がっていく。

 だがその代償は大きかった。

「――ッ!!」

 頭蓋の内側を杭で打ち抜かれたような激痛。

 視界が揺れる。

 膝が崩れ落ちた。

「ミレア!?」

「大丈夫か!?」

 慌てて駆け寄る仲間たち。

 だがミレアは震える手で地面を押し、再び立ち上がった。

「……だい……じょうぶ……」

 唇を噛み締める。

 血の味が広がる。

 それでも彼女は前を向いた。

 逃げない。

 ここで倒れるわけにはいかない。

「……いくよ!」

 その声と同時に。

 リンクした全員の魔力が一つに束ねられた。

 大地が震える。

 王都中の瓦礫が浮かび上がった。

 崩れた家屋。

 砕けた石畳。

 散乱した巨岩。

 あらゆる土と石が引き寄せられ、巨大な塊となっていく。

 腕。

 脚。

 胴体。

 そして頭部。

 徐々に人型を形成し――

 ついに完成する。

 巨大ゴーレム。

 王都の瓦礫から生まれた守護者だった。

 圧倒的な質量を誇る巨体が、一歩踏み出す。

 地面が揺れた。

 目標はただ一つ。

 魔装兵器獣。

◇◇◇

「行けェェェッ!!」

 兵士たちの叫びが響く。

 前線では総攻撃が始まっていた。

 レオンの剣。

 アッシュの斬撃。

 ヒルデの鋼鉄の爪。

 レイの鋭い一撃。

 ディルクも指示を飛ばす。

「スカルリザード!抑え込め!」

 巨大な骨の魔獣が飛び掛かる。

「サンダーバード!上から叩け!」

 雷鳴と共に巨大な鳥が急降下した。

 完璧な連携。

 誰もが持てる力を振り絞る。

 だが。

「……効いてねぇ」

 ニクスが吐き捨てる。

 傷は増えている。

 肉は削れている。

 しかし怪物は止まらない。

 まるで死体が無理やり動いているかのようだった。

 そして。

 魔装兵器獣がゆっくりと首を振る。

 巨大な角が横薙ぎに振り抜かれた。

「――ッ!!」

 衝撃。

 レオンたちの体がまとめて吹き飛ばされる。

 地面を何度も転がり、肺から空気が吐き出された。

 息ができない。

 視界が霞む。

 その時だった。

 魔装兵器獣の砲身がゆっくりとこちらへ向けられる。

 無機質な動き。

 そこへ膨大な魔力が収束していく。

「まずい――!!」

 誰かの悲鳴。

 だが間に合わない。

 放たれる。

 そう誰もが思った瞬間――

 ドゴォォォン!!

 巨大な影が横から突っ込んだ。

 ゴーレムだった。

 瓦礫の巨人が魔装兵器獣を押し上げる。

 砲口が空へ逸れた。

 しかし。

 怪物は即座に標的を変更する。

 砲身がゴーレムへ向けられた。

 そして――

 轟音。

 魔力砲が炸裂した。

 直撃。

 ゴーレムの頭部が吹き飛ぶ。

 石片が豪雨のように降り注いだ。

 誰もが終わったと思った。

 だが。

 それでもゴーレムは倒れない。

 片腕を突き立て。

 踏みとどまる。

 必死に怪物を押さえ続けていた。

 まるでミレア自身の意志を映すかのように。

◇◇◇

「……っ……」

 その頃。

 ミレアの視界は限界を迎えていた。

 繋がり続ける無数の意識。

 流れ込み続ける情報。

 頭の中が悲鳴を上げる。

 もう限界だった。

「ミレア!!」

 仲間たちの声が聞こえる。

 だが遠い。

 酷く遠い。

 そして――

 ぷつりと。

 糸が切れた。

 ミレアの体が崩れ落ちる。

 同時にリンクも解除された。

 支えを失ったゴーレムは形を維持できず、巨大な瓦礫の山となって崩れ落ちる。

「くそっ!!」

 誰かが叫んだ。

 盾は消えた。

 もう後がない。

◇◇◇

 レオンは立ち上がる。

 全身が悲鳴を上げていた。

 腕は痺れ。

 脚は重い。

 それでも剣を握る。

 守るために。

 戦うために。

「……終わらせる」

 呟く。

 そして駆けた。

 一直線。

 全力で。

 体中のマナを剣へ流し込む。

 これが最後だ。

 そう覚悟して振り抜く。

 渾身の一撃。

 刃が魔装兵器獣の頭部へ叩き込まれる。

 ――ガギィィン!!

 凄まじい金属音が響いた。

「なっ……!?」

 硬い。

 異常なほどに。

 刃は食い込む。

 だがそこで止まる。

 レオンは歯を食いしばった。

「届け……!」

 力を込める。

 押し込む。

 あと少し。

 あと少しだけ届けば――

 しかし。

 現実は非情だった。

 ――バキィン!!

 乾いた音が響く。

 剣身が砕け散った。

「――!?」

 目を見開くレオン。

 その一瞬の隙を怪物は見逃さない。

 次の瞬間。

 巨大な一撃が叩き込まれた。

 レオンの体が宙を舞う。

 地面を何度も転がり、瓦礫へ激突した。

「レオンさん!!」

 悲鳴のような声が響く。

 ロップだった。

 気付けば彼女は走り出していた。

 恐怖など忘れて。

 ただ一人。

 倒れた英雄の元へ。

 戦場は崩れかけていた。

 切り札は尽きた。

 仲間たちは傷付き。

 希望は折れかけている。

 それでも――

 まだ誰も諦めていなかった。

 戦いは、まだ終わっていない。

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