適正
高い壁だった。
空に届くんじゃないかと思うほどの高さ。
灰色の石で積み上げられたそれは、村で見たどんな建物よりも圧倒的だった。
「……ここが」
レオンは見上げる。
「ルミナリア王国だ」
隣にいた兵が、事務的に言った。
門はすでに開かれている。
中には、人がいた。
多い。
多すぎる。
ざわめき。
声。
匂い。
すべてが、村とは違う。
レオンは無言で、その中へ足を踏み入れた。
通されたのは、大きな建物だった。
中はさらに広い。
石の床に、整然と並ぶ机。
そして——
前に置かれた、水晶。
「次」
呼ばれる。
順番に人が進み、手をかざしていく。
水晶が光る。
色が変わる。
赤、青、緑、黄。
周囲がざわつく。
「火属性か」
「水だな」
「おお、風か」
評価されている。
色で。
光で。
それが“価値”らしい。
レオンは後ろから、それを見ていた。
(……なんだこれ)
仕組みはわからない。
だが、重要なものだということは理解できた。
「次」
呼ばれる。
レオンの番だった。
前に出る。
水晶が目の前にある。
透き通っている。
何もない。
ただの石にしか見えない。
「手をかざせ」
横にいた役人が言う。
無機質な声。
感情はない。
レオンは言われた通りに手を伸ばす。
触れる直前。
ほんの一瞬だけ、違和感が走る。
(……なんだ?)
だが、考える間もなく手が触れた。
その瞬間。
水晶の中で、何かが“揺れた”。
光が——
生まれかけて、消える。
また生まれかけて、歪む。
色が定まらない。
赤のようで、青のようで、どれでもない。
濁る。
混ざる。
そして——
何もなくなる。
「……」
沈黙。
役人が眉をひそめる。
もう一度、見る。
何も起きない。
「……もう一度」
言われるままに、再度手をかざす。
同じだった。
揺れて、歪んで、消える。
結果は変わらない。
「……記録」
別の者が紙に書き込む。
淡々と。
「属性反応なし」
その言葉に、周囲がざわつく。
「は?」
「なしって何だよ」
「そんなのあるのか?」
ひそひそとした声。
興味と、軽い嘲り。
「……無属性」
役人が言い直す。
「適性あり。だが属性なし」
その声には、わずかな“落胆”が混じっていた。
価値が低い。
そう判断されたのが、はっきりと伝わる。
「次へ進め」
それだけだった。
終わり。
特別な説明もない。
祝福もない。
ただ、流される。
レオンは水晶から手を離す。
もう一度だけ、それを見る。
何も映っていない。
ただの透明な石。
「……」




