表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/164

救助要請

窓の外では、やわらかな風が木々を揺らしていた。

 昼下がりの陽光が校舎を照らし、学園にはいつもと変わらぬ穏やかな時間が流れている。

 生徒たちの話し声。

 中庭から聞こえる笑い声。

 どこを見ても平和そのものだった。

 ――それなのに。

「……レオン達、今頃ゼルガリアに向かってんのかなぁ」

 ぽつりと呟いたのはニクスだった。

 窓際の席で頬杖をつきながら、どこか遠くを眺めるように空を見上げている。

 その横ではミレアも窓の外へ視線を向けていた。

「無事に着いてるといいね……」

 普段の彼女らしくない弱々しい声。

 レオンたちが旅立ってからまだそれほど時間は経っていない。

 だが、胸の奥にある不安は日を追うごとに大きくなっていた。

 教室には静かな空気が流れていた。

 リシェルは何も言わない。

 腕を組み、静かに席へ腰掛けたまま二人の様子を見ている。

 その表情はいつも通り無機質で、感情の揺らぎは見えない。

 しかし、その瞳だけは鋭かった。

 何かを考えている。

 ただ漠然と仲間を案じているわけではない。

 今起きている状況を冷静に整理し、その先を見据えようとしていた。

 そんな時だった。

 ガラリ――と教室の扉が開く。

 反射的に全員の視線がそちらへ向く。

「……全員いるな」

 現れたのはディルクだった。

 いつもと変わらぬ落ち着いた声音。

 だが、その声にはどこか張り詰めたものが混じっている。

 教室内の空気が自然と引き締まった。

 ディルクは教壇へ歩み寄ると、手にしていた書類を机の上へ置いた。

「任務書を渡す前に、少し話がある」

 その一言だけで、生徒たちは背筋を伸ばす。

 雑談は止み、教室を静寂が支配した。

 ディルクは教室を見渡す。

 そして静かに口を開いた。

「……皆も知っていると思うが」

 一拍。

「外の国で戦争が起きている」

 その言葉が落ちた瞬間、教室の空気が変わった。

 誰も声を上げない。

 だが、その重さは確かに全員へ伝わる。

「アルケイア国とゼルガリア国だ」

 ニクスの目が大きく見開かれた。

 ミレアも思わず息を呑む。

 リシェルだけは表情を変えなかったが、その瞳がわずかに細められる。

「現在、ゼルガリアから各国へ救援要請が届いている」

 ディルクは淡々と続けた。

「諸君らには、市民の避難誘導を手伝ってもらう」

 一瞬、沈黙が落ちる。

 戦闘任務ではない。

 敵と剣を交えるわけでもない。

 だが――。

 向かう先は戦場だ。

 危険がないはずがない。

 誰もそれを理解していた。

「なお、アルケイアに対しては各国から戦争停止の勧告が出されている」

 ディルクの声に感情はない。

 だからこそ、その事実がより重く響いた。

「だが……現在も無視を続けているようだ」

 空気がさらに沈む。

 誰も言葉を発しない。

「現在、エルナディアとシークナスは――」

 そこでディルクは言葉を切った。

 そして静かに告げる。

「抑止力として、アルケイアと対立する方向で動いている」

 教室の空気が凍りついた。

 意味が分からない者はいない。

 戦争は終わらない。

 むしろ広がろうとしている。

 ニクスが膝の上で拳を握り締めた。

「……レオン達」

 小さな呟き。

 向かった先はゼルガリア。

 まさに戦火の中心となりつつある国だった。

 ミレアも不安そうに視線を伏せる。

 レオン。

 ユージン。

 アッシュ。

 レイ。

 仲間たちの顔が脳裏をよぎった。

 リシェルは静かに目を閉じる。

 そして一度だけ深く息を吐いた。

「……レオン」

 短い言葉。

 それ以上は何も言わない。

 だが、その一言には確かな想いが込められていた。

 ディルクはそんな生徒たちを見渡し、静かに頷く。

「準備をしろ」

 短く告げる。

「すぐに出る」

 それだけ言うと教壇を降り、そのまま扉へ向かった。

 そして振り返ることなく言葉を残す。

「――ついて来い」

 扉が閉まる。

 教室に静寂が訪れた。

 ほんの数秒。

 だが、その沈黙は長く感じられた。

 次の瞬間。

 ガタッ――と椅子が引かれる音が重なる。

 誰一人として迷わない。

 ニクスは立ち上がると、窓の外へ視線を向けた。

 青空が広がっている。

 どこまでも平和そうな空だった。

「……無事でいろよ」

 誰にも聞こえないほど小さく呟く。

 その先にいるのは、今ここにはいない仲間たち。

 ミレアが隣へ並んだ。

 続いてリシェルも立ち上がる。

「行こ」

 ミレアの言葉に、

「ああ」

 ニクスが頷く。

 そして三人は歩き出した。

 教室を出る。

 向かう先に待っているのは、いつもの日常ではない。

 戦火に揺れる国。

 多くの人々が恐怖に怯える場所。

 そして――。

 大切な仲間たちが向かった場所と同じ戦場だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ