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リュクシア

部屋に漂う空気は、先ほどまでとは明らかに違っていた。

 重苦しさは消えていない。

 だが、止まってはいない。

 沈み込んでいた空気が、再び前へ動き始めている。

「その魔鉱岩ってのは、どこにあるんだ?」

 沈黙を破ったのはレオンだった。

 短く、だが迷いのない声。

 ケンジャは腕を組んだまま、ゆっくりと視線を上へ向ける。

「……リュクシア国だ」

「リュクシア?」

 聞き返したレオンに、横からミレアが口を開いた。

「亜人達の国だよ。ゼルガリアから海を渡った先にある島国」

 そこで一度言葉を切り、僅かに表情を引き締める。

「かなり閉鎖的な国でね。普通は簡単に入れない」

「ほう」

 ケンジャが感心したように小さく頷く。

「よく知っているな」

「情報くらいは集めてるから」

 ミレアは肩を竦めた。

 ケンジャは再び話を戻す。

「その国の鉱山の最深部――そこに魔鉱岩は生成される」

 淡々とした声だった。

「自然生成される鉱石の中では、最も純度が高い部類だ」

「……つまり、簡単には手に入らねぇってことか」

 ニクスが眉を寄せる。

「当然だ」

 ケンジャは即答した。

「採掘そのものが困難な上に――」

 一拍。

「海を渡る必要がある」

 その言葉に、部屋の空気が静かに張り詰める。

 海。

 それだけで、この世界では危険を意味する。

「まあ、母殿に頼めば早いがな」

 ケンジャがさらりと言った。

「乗せてもらえばすぐ着く」

「……母殿って」

 ニクスが露骨に嫌そうな顔をする。

 数秒の沈黙。

 嫌な予感だけが膨らんでいく。

「……あのでっけぇケツァルコアトルか?」

「そうだ」

「それに乗るのか?」

「乗せてもらえればいいが、お前達だと多分食われるぞ?」

 再び沈黙。

「……無しだな」

 ニクスが真顔で断言した。

「現実的ではない」

 リシェルも静かに同意する。

「海路を使うしかなさそうですね……」

 ミレアが考え込むように呟く。

「でも、あの海域は魔物の活動もかなり活発なはずだよ」

「危険だな」

 レオンが低く言った。

 だが、その声音に迷いはなかった。

 ゆっくりと顔を上げる。

「……行くしかないだろ」

 その一言で、場の空気が固まる。

「本気かよ」

 ニクスが呆れ混じりに眉をひそめる。

「他に方法があるか?」

 返す言葉はなかった。

 レオンは真っ直ぐ前を見据えたまま続ける。

「シンを、あのままにしておくつもりはねぇ」

 静かな声だった。

 だが、その決意は誰よりも重かった。

 ミレアが小さく息を吸い、ゆっくり吐き出す。

「……行くなら、かなり準備が必要になるよ」

「だな」

「航路の確保、補給、それに入国手段も……」

「なんとかするさ」

 レオンは即答した。

 迷いのない眼差し。

 その無鉄砲さに、ニクスが小さく舌打ちする。

「……ほんと相変わらずだなお前」

 それを見たケンジャが、僅かに口元を歪めた。

「……まずはゼルガリアに向かうぞ。船を確保する必要がある」

「なんだよ、宛でもあるのか?」

 ニクスの問いに、ケンジャはあっさりと答える。

「ない」

「ねぇのかよ!」

 即座に飛ぶツッコミ。

 だがケンジャは気にした様子もなく、ふっとレオンへ視線を向けた。

「だが――」

 一瞬だけ、その目が細くなる。

「いずれにせよ、リュクシアへ行くなら亜人の協力は必須だぞ?」

 窓の外で風が揺れた。

 進むべき道は決まった。

 亜人の島リュクシア。

 海の先に存在する閉ざされた島国。

 そこは――簡単に辿り着ける場所ではない。

 そして。

 無事に戻れる保証など、どこにもなかった。

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