鞄の中に
「……武技使いとは、久しいな」
ぽつり、と漏れた声に、ニクスの肩がびくりと跳ねた。
「黙ってろ!!」
反射的に怒鳴り返す。
「誰かに見られたらどうすんだ!!」
ニクスは周囲を見回しながら、足早に廊下を駆け抜けた。
角を曲がり、階段を乱暴に駆け降りる。靴音が朝の静かな寮内に響き、焦りをさらに煽った。
そのまま勢いよくエントランスへ飛び込む。
すると――。
「……遅い」
壁にもたれたレオンが、呆れたようにこちらを見ていた。
隣にはミレアとリシェル。そしてユージンの姿もある。
「ったく……いつの間に出てたんだ?」
レオンの視線が、ニクスの腕の中へ向けられる。
「部屋に入った時に」
当然のような口調で答えたのは、抱えられている張本人――ケンジャだった。
「ごめん……僕、本当に気づかなかった……」
ユージンが深いため息をつく。
どうやらケンジャは、ずっとユージンの鞄の中に潜り込んでいたらしい。
「いいから、これ持っとけ」
ニクスは半ば投げやりに言うと、そのままケンジャをミレアへ押し付けた。
「え、ちょ――」
制止の言葉が最後まで出る前に、ぐい、と。
ケンジャはそのままミレアの鞄の中へ押し込まれる。
「ちょ、ちょっと待って――」
「うー……狭い」
「中で喋らないで!?」
もぞり、と鞄が動く。
ミレアが慌てて両手で抱え直した。
「……やれやれ」
ユージンが額を押さえる。
エントランスにはケガ人やお見舞いに来た人の姿もちらほら見え始めていた。これ以上ここに留まるのは危険だ。
「……とりあえず、場所を変えよう」
周囲を警戒しながらユージンが言う。
「ここは目立つ」
「どこ行く」
短くレオンが尋ねる。
「僕とレオンの寮でいいんじゃない?」
即答だった。
「一番都合がいいし」
「……だな」
レオンが小さく頷く。
「動くぞ」
その一言で、一行は歩き始めた。
ミレアは鞄を胸に抱えたまま、どこかぎこちない足取りで後を追う。
すると。
「……なぁ」
ぼそり、と鞄の中から声がした。
「黙ってろって言っただろ!!」
即座にニクスが振り返る。
「暗い」
「知らねぇよ!!」
朝の静かな廊下に、小さな言い争いが響く。
そんな騒がしさを引き連れながら、レオン達はそのまま寮へと向かっていった。




