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世界会議

重い沈黙が、場を支配していた。

 円卓を囲む五つの影。

 本来なら七つの席が埋まるはずのその場には、二つの空席が残されている。

 アルケイア。

 ゼルガリア。

 そして壁際には、名のみが刻まれた席。

 ——リヴァリア。

「……皆様、本日はお集まりいただき感謝いたします」

 静かに口を開いたのは、教国エルナディアの法王。

 アグナス・エル・エルナディア。

 老いた声は穏やかで、どこまでも柔らかい。

 だが、その一言で場の主導権は完全に握られた。

「嘆かわしい出来事が起きました。未来を担う若者たちが、何者かに狙われた」

 ゆるやかに視線が巡る。

「まずは、ルミナリア王。ご説明を」

 促され、ルーク・ルミナリアが立ち上がる。

「……我が国の学園生徒が、任務中に誘拐未遂に遭った」

 低く、抑えた声。

 その奥に、明確な怒りがある。

「現場はバルディオス領内。発見されたのは敵組織の拠点」

 一拍置く。

「——そして、問題はそれだけではない」

 合図と同時に、箱が運び込まれる。

 蓋が開く。

 中にあるのは、血の跡が残る紙片。

「押収した納品書だ」

 円卓を回るそれを、各国の王が手に取る。

「捕らえた魔物の搬入先。その宛先には——」

 わずかに間を置く。

「アルケイアの軍将の名が記されている」

 空気が、変わった。

「……待て」

 低く割り込んだのは、バルディオス国王ガーノルド。

 鋭い視線が紙を射抜く。

「これは我が国を経由した流通だな」

「その通りだ」

「だが、それだけで我が国の関与は証明できん」

 即座の反論。

 だが、言葉の端にわずかな硬さ。

「国内の流通全てを把握しているわけではない。むしろ——」

 納品書を机に置く。

「我が国が“隠れ蓑に使われている”可能性の方が高い」

 その視線が、空席へと向けられる。

 アルケイアの席。

「……興味深いご意見ですな」

 穏やかに、アグナスが口を挟む。

 責める色はない。だが逃がさない。

「では、もう一つの“証”を」

 再び運び込まれる物。

 長布に包まれた何か。

 机に置かれ、布が外される。

 ——魔剣。

 黒く、鈍い光を放つそれが露わになる。

 その瞬間。

 場の空気が、明確に変わった。

「……これは」

 シークナスの女王エレノアが、静かに口を開く。

 立ち上がらず、ただ見据える。

「……嫌な気配ですね」

 断定に近い響き。

「この魔石、通常の物ではありません」

 視線がルークへ向く。

「説明を」

「……断定は避けたいが」

 短く息を吐き、

「“人”が使われている可能性がある」

 沈黙が落ちる。

「……ふざけるな」

 ガーノルドの拳が机を叩く。

「そんなものが我が国で——」

「ですが、通っている」

 エレノアが遮る。

 静かで、容赦がない。

「結果として、あなたの国を経由している」

「……ッ」

 言葉が詰まる。

「責任の所在も重要でしょう」

 アグナスが穏やかに言う。

 場を整えるように。

「しかし、それ以上に我々が取るべきは——対応です」

 視線が巡る。

「……アルケイアへの正式な調査要請」

 エレノアが引き継ぐ。

「そして各国共同での圧力」

 迷いなく言い切る。

「魔装兵器の運用、このまま拡大すれば制御不能になります」

「同意する」

 ルークが頷く。

「看過できる問題ではない」

 短い沈黙の後。

「では、その方向で進めましょう」

 アグナスの一言で、全てが決まった。

 誰も逆らわない。

 ——逆らえない。

 会議は、静かに幕を下ろした。

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