帰還
――沈黙。
誰も口を開かないまま、時間だけが流れる。
重い空気。
情報も、感情も、整理しきれていない。
その均衡を――
「……で?」
あっさりと、壊したのは賢者だった。
全員の視線が一斉に向く。
「卵もない。教国に入るあてもない」
指折り数えるように言う。
「……これからどうするんだ?」
空気を読む気が一切ない。
あまりにも率直な問い。
「お前な……」
ニクスが呆れたように呟く。
だが、その問い自体は――
避けては通れないものだった。
短い沈黙。
その後。
「……卵は、なかったですけど」
最初に口を開いたのはミレアだった。
少しだけ緊張した声。
だが、はっきりと前を向いている。
「情報は手に入りました」
一歩、踏み出す。
「それに……この魔剣については、国に報告する必要があると思います」
視線をファルガの持つ剣へ向ける。
「……シン君も、心配ですし」
その言葉に。
「……そうね」
リシェルが静かに同意する。
短いが、明確な意思表示。
続いて。
「……そうだね」
ユージンが頷いた。
「ここに長居する意味もない」
冷静な判断。
そして、それは全員の共通認識でもあった。
帰るべき場所。
報告すべきこと。
確認すべき仲間。
進むべき方向は、自然と定まる。
――その時。
「決まりだな」
またしても割り込んできたのは、賢者だった。
満足げに腕を組む。
「ルミナリアに行こうか!」
軽い。
あまりにも軽い決定。
「……は?」
ニクスが即座に反応する。
「お前、ついてくる気か?」
睨みつける。
だが。
賢者は、迷いなく頷いた。
「あぁ」
そして。
ゆっくりとレオンの方を見る。
「お前の戦いを見てな」
わずかに目を細める。
「……興味が湧いた」
一拍置いて。
「お前の“魔法”に」
その言葉に。
レオンは、特に表情を変えない。
ただ。
「……好きにしろ」
短く、それだけを返した。
興味も拒絶もない。
ただの事実として受け流す。
その反応に。
「そうか」
賢者は、どこか楽しげに笑った。
そして――
くるりと背を向ける。
視線の先は。
巨大な存在。
ケツァルコアトル。
白い幼体は、大きく息を吸い込み。
「――――ッ!!」
甲高い鳴き声を放った。
空気が震える。
山が揺れる。
その声に応えるように。
巨大なケツァルコアトルが、ゆっくりと翼を広げた。
圧倒的な風圧。
土煙が舞い上がる。
そして――
大地を蹴り。
空へと舞い上がる。
巨体が、雲へと突き進む。
やがて、その姿は。
完全に、視界から消えた。
静寂が戻る。
ただ、風だけが残った。
「……行ったか」
ニクスが呟く。
その横で。
レオンは、空を一瞬だけ見上げ。
すぐに視線を戻した。
「……戻るぞ」
短い一言。
それで十分だった。
全員が動き出す。
目的地は――
ルミナリア。
新たな情報と。
新たな疑問を抱えたまま。
彼らは、山を下り始めた。




