卵の所在
――静寂が、落ちる。
あまりにもあっけなく。
知りたかった情報は、目の前に転がってきた。
「……」
レオンは黙ったまま、思考を巡らせる。
魔族大戦。
魔法の起源。
そして――
魔力を引き抜く技術。
(……教国)
ユージンの言葉が蘇る。
アルケイアの技術と同じ。
そして今。
その出所が“教国エルナディア”である可能性が浮上した。
(繋がってる……)
頭の中で、点が結ばれていく。
商業国。
錬成国家アルケイア。
そして、教国。
バラバラだったはずの情報が。
少しずつ、輪郭を持ち始める。
(……まだ断片だ)
だが。
(確実に近づいてる)
真実へ。
その感覚だけは、はっきりとあった。
その時。
「……因みによ」
ニクスが、気だるそうに口を開く。
視線は賢者へ。
「そもそも目的の卵はあるのか?」
単刀直入。
現実的な問い。
その質問に。
「あぁ、それなら――」
賢者はあっさりと答えた。
「私が末っ子だな」
「……は?」
ニクスが眉をひそめる。
賢者は続ける。
「母殿は、少なく見積もっても……あと十年は産まんぞ」
あまりにも軽い口調。
だが内容は致命的だった。
「……マジかよ」
ニクスが顔をしかめる。
その横で。
「……無駄足、か……」
ユージンが小さく呟いた。
今回の目的。
ケツァルコアトルの卵。
それが手に入らない以上――
任務は失敗。
その現実が、静かにのしかかる。
だが。
「……あ」
ニクスが、ふと思い出したように顔を上げる。
「そういや」
視線を横へ向ける。
ファルガへ。
「シンがどうのって、あいつと揉めてたよな」
顎で魔剣の方を指す。
「何があったんだ?」
軽い調子の問い。
だが。
その一言で――
空気が変わった。
「……」
ファルガは、答えない。
視線を落としたまま、沈黙する。
数秒。
いや、体感ではもっと長い沈黙。
やがて――
「……俺たちが出立してすぐの話しだ」
低く、絞り出すような声。
全員の視線が集まる。
「シンは……バルディオスでの潜伏捜査に参加していたらしい…」
一つずつ。
言葉を選ぶように。
「そこで……敵と交戦した」
拳が、わずかに震える。
「……その時に、両足をやられたみたいなんだ…」
空気が、重く沈む。
だが、ファルガは続けた。
「俺は……山に来る前、麓の町の戦士ギルドでその連絡を受けた」
レオンの目が、わずかに見開く。
「そして……さっきの戦闘で分かった」
ゆっくりと、魔剣を見る。
「……あのガリューンって野郎が、その張本人だ」
――沈黙。
誰も、すぐには言葉を発せなかった。
理解が、追いつかない。
いや。
理解したくない。
「……は?」
最初に漏れたのは、ニクスの声だった。
「……おい、待てよ」
視線が揺れる。
リシェルも無言のまま、ファルガを見ている。
そして。
レオンは――
一歩、踏み出した。
「……なんで」
低い声。
感情を押し殺した声音。
そのまま、ファルガの胸ぐらを掴む。
「なんで、もっと早く教えなかった」
――怒り。
明確な、怒り。
「俺たちは……何も知らずに戦ってたんだぞ……!」
掴む手に力が入る。
ファルガの体がわずかに揺れる。
だが。
「……」
ファルガは、何も言えなかった。
言い返す言葉が、ない。
ただ、歯を食いしばる。
その時。
「レオン、やめて」
ユージンが間に入る。
静かに、しかし確実に手を添える。
「……僕らのために、あえて黙ってたんだろう」
その言葉に。
レオンの動きが、止まる。
「動揺させないために」
ユージンは続ける。
「戦いに支障が出ないように」
視線をファルガへ向ける。
「……そうだろ?」
わずかな沈黙。
そして。
「……あぁ」
ファルガは、小さく頷いた。
視線を逸らしたまま。
「……すまねぇ」
短い。
だが、重い言葉だった。
その場に、静かな沈黙が落ちる。
誰も、すぐには次の言葉を見つけられなかった。




