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推測と検証

 ――それから、私は育った。

 三度目の人生。

 最初こそ戸惑いはあった。目を覚ませば知らない天井があり、見知らぬ親がいて、赤子として抱き上げられる。そんな異常を前にして、平然としていられるほど私は壊れていなかった。

 だが、人というのは慣れる生き物だ。

 いや――違うな。

 慣れざるを得なかった。

 前回の人生で、私は確かに満足して死んだ。

 やり残したことはなく、後悔も未練もなかった。静かな達成感と共に迎えた、理想的な最期だったはずだ。

 それなのに。

 こうしてまた、生まれている。

 その事実が、全てを物語っていた。

(……あぁ、終わらないのか)

 理解するのに、時間はかからなかった。

 老いて死んでも、終わりではない。

 ならば、この現象には条件がある。

 あるいは――条件など存在しないのかもしれない。

 どちらにせよ、確かめる必要があった。

 そして、自分の足で歩けるようになった頃。

 私は最初の“検証”を行った。

 村外れの崖だった。

 吹き抜ける風は強く、眼下には鋭い岩場が広がっている。大人ですら足を滑らせれば助からない場所だ。

 幼い身体でそこへ立ち、私は静かに下を見下ろした。

 恐怖は――なかった。

「……まぁ、そうだろうな」

 独り言のように呟き、躊躇なく踏み出す。

 身体が宙に浮く。

 一瞬だけ世界が静まり返り、次の瞬間、重力が全身を引きずり下ろした。

 風が耳元で唸る。

 岩肌が迫る。

 そして――

 衝撃。

 骨が砕ける音がした。

 肉が裂け、内臓が潰れ、視界が赤黒く弾け飛ぶ。

 激痛。

 呼吸すらできない。

 そのまま意識は暗闇に沈み――

 再び目を開けた時、私は別の天井を見上げていた。

 知らない家。

 知らない家族。

 そして、小さな赤子の身体。

(……だろうな)

 驚きはなかった。

 予想通りだったからだ。

 そこから先は、繰り返しだった。

 何度も。

 何度も。

 何度も。

 私は死んだ。

 崖から飛び降りた。

 刃を自らの喉へ突き立てた。

 冬山で凍え、川に沈み、炎に焼かれた。

 ある時は、魔物の巣へ自ら足を踏み入れたこともある。

 暗い洞穴の奥。

 獣の唸り声。

 粘つくような殺気。

 次の瞬間には牙が 喉を裂き、腕が噛み千切られ、骨が砕けた。

 悲鳴すら長くは続かない。

 それでも。

 次に目を覚ませば、また最初からだった。

(……くだらない)

 繰り返すうちに、感情は少しずつ削れていった。

 痛みに慣れることはない。

 死はいつだって苦痛だった。

 だが、“意味”が薄れていく。

 死が終わりではないのなら、それはただの過程に過ぎない。

 転ぶことと、何が違う?

 そんな風に思い始めた頃には、もうまともな倫理観など残っていなかったのかもしれない。

 そして、ある時。

 私はふと思い出した。

(……最初の原因は、なんだった?)

 記憶を辿る。

 最初の死。

 森の中。

 飢え。

 そして――キノコ。

(……あれか?)

 可能性は否定できない。

 ならば、調べるだけだ。

 私は森を巡り、記憶を頼りに似た個体を探し回った。

 色。

 形。

 胞子。

 匂い。

 生息環境。

 毒性反応。

 思いつく限り、あらゆる観点から分析する。

 そして導き出した結論は、あまりにも単純だった。

(……普通だな)

 ただの毒キノコ。

 珍しくもない、ありふれた猛毒。

 特別な要素など、どこにもない。

(……つまり)

 原因ではない。

 少なくとも、それだけでは。

 だが念のため、私はそのキノコを口にした。

 かつてと同じように。

 躊躇なく。

 数秒後、全身を激痛が駆け巡る。

 痙攣。

 嘔吐。

 崩れ落ちる身体。

 視界が滲み、意識が遠のいていく。

(……やっぱり、ただの毒だな)

 その結論だけを残し、私はまた死んだ。

 それからも、私は死に続けた。

 理由は様々。

 方法も様々。

 回数は――途中で数えるのをやめた。

(……いつからだっけな)

 意味がなかったからだ。

 数えたところで終わらない。

 ならば、無意味だ。

 そして、ある時。

 何度目かも分からない人生の中で、私はふと気づいた。

(……あぁ)

 どこかの国で。

 どこかの時代で。

 どこかの空の下で。

 私は、自分の異常を改めて見つめ直した。

 死んでも途切れない記憶。

 失われても再構築される存在。

 積み重なっていく知識と経験。

 それら全てを、この世界の理に当てはめる。

(……魔法だな)

 その結論は、驚くほど自然に胸へ落ちた。

 さらに思考を絞る。

(転移じゃない……転生、か)

 場所は変わる。

 時代もズレる。

 だが、共通しているのは一つ。

 私は常に、“生まれ直している”。

(……転生魔法)

 口にした瞬間、その言葉は妙にしっくりきた。

 まるで、自分自身がその現象そのものになったかのように。

(……なるほどな)

 そこでようやく、私は理解した。

 これは偶然ではない。

 事故でもない。

 ――力だ。

 自分に宿った性質。

 あるいは呪い。

(……随分と、面倒なものを持ってるじゃないか)

 思わず笑みが漏れた。

 それは諦めではない。

 受け入れたのだ。

 自分という存在を。

 終わらない命。

 繰り返す魂。

 積み重ね続ける観測者。

 ならば私は、きっと――

「……賢者、というわけだ」

 その呟きは、どこか自嘲じみていた。

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