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毒キノコ

 ――賢者。

 その一言が落ちた瞬間。

 場の空気が、妙な静寂に包まれた。

「…………」

「…………」

「…………」

 誰も、何も言えない。

 というより――

(……どこから聞けばいい?)

 レオンは無言で考えていた。

 情報が多すぎる。

 ・人語を話す魔物

 ・自称“賢者”

 ・明らかに普通ではない存在感

 どこを切り取っても異常だ。

 ミレアも同じように目を細め、思考を巡らせている。

 ユージンは冷静さを保とうとしているが、内心では整理が追いついていない。

 そして――

「……おい」

 その空気をぶち壊したのは、やはりニクスだった。

 腕を組み、明らかに不機嫌そうに鼻で笑う。

「賢者ぁ?」

 じろり、と小さな個体を睨みつける。

「……随分デカく出たな」

 挑発。

 遠慮のない一言。

 だが――

 次の瞬間。

「貴様の様な単細胞よりかは豊富な知識を有してるぞ」

 即答だった。

「……あ?」

 ニクスのこめかみに、ぴくりと血管が浮く。

 小さなケツァルコアトル――賢者は、確実に“煽っている”。

「……てめぇ……」

 ニクスの声が低くなる。

 その様子を見て。

 賢者は――

 わざとらしく、肩をすくめた。

「おや、図星か?」

 にやり、と笑う。

 完全に遊んでいる。

「ガキが……!」

 一歩踏み出しかけるニクス。

「ニクス、やめて」

 即座にミレアが制止する。

「とっ…とりあえず話しを聞きましょう…」

「チッ……!」

 舌打ちしながらも、ニクスは足を止めた。

 だが視線は完全に“敵”。

 その反応を見て。

 賢者は、ふっと小さく息を吐く。

「……まぁ」

 少しだけ、声色が変わる。

「この姿では、疑うのも無理はないか」

 先ほどまでの挑発とは違う、落ち着いた口調。

 そして――

「……少し、私の話をしようか」

 静かにそう言った。

 空気が変わる。

 レオンは目を細める。

 ――来る。

 核心に繋がる話だ。

 誰も口を挟まない。

 賢者は、ゆっくりと語り始めた。

◾️回想

 ――遠い昔の話だ。

 まだ、私が“普通の人間”だった頃。

 森の中を歩いていた。

 当時の私は、まだ幼い少年だった。

 特別な力もなければ、特別な使命もない。

 ただの、どこにでもいる子供。

 ――いや。

 少しだけ好奇心が強かった、くらいか。

 その日も、いつものように森を探索していた。

 だが。

「……腹、減ったな」

 不意に、空腹が襲う。

 持っていた食料は、すでに底をついていた。

 引き返すべきだったのだろう。

 だが――

「……お?」

 視界の端に、それはあった。

 大きなキノコ。

 妙に鮮やかな色をしていたが、その時の私は気にしなかった。

 空腹が、判断力を鈍らせていた。

「……いける、よな」

 誰に言うでもなく呟き。

 ――手を伸ばした。

 そして。

 躊躇なく、口に運ぶ。

 次の瞬間。

「――っ!!?」

 激痛。

 腹の奥が、焼けるように痛む。

「が……っ……!?」

 視界が歪む。

 呼吸ができない。

 身体が言うことを聞かない。

 ――毒だ。

 理解した時には、もう遅かった。

「……っ……くそ……」

 地面に倒れ込む。

 意識が、急速に遠のいていく。

(……こんな……)

 思考が途切れ途切れになる。

(……こんな、くだらない……)

 ただのキノコ。

 ただの、軽率な判断。

(……終わる……のか……)

 後悔が、胸を満たす。

 何も成し遂げていない。

 何も残していない。

 ――こんな、つまらない終わり方で。

 意識が、闇に沈んだ。

 ――そして。

 次に目を覚ました時。

 視界は、ぼやけていた。

 だが。

「……?」

 何かがおかしい。

 柔らかい感触。

 温もり。

 誰かに――抱えられている。

 ぼんやりと視界が晴れる。

 そこにいたのは。

 見知らぬ女性。

 優しげな顔で、こちらを見下ろしている。

「……ぁ……」

 声を出そうとする。

 だが。

 上手く、喋れない。

 舌が回らない。

 というより――

「……あー……う……」

 口から出たのは、意味を成さない音だった。

(……は?)

 その瞬間。

 どこからか。

 ――赤子の泣き声が聞こえた。

「元気な子ね」

 女性が、微笑む。

 ――元気な子?

「なぁ、俺にも抱かせてくれ」

 男の声。

 視界に、別の人物が入る。

 女性は頷き。

 こちら――“自分”を、その男へと渡した。

 身体が、持ち上がる。

 視界が揺れる。

 その拍子に――

 ふと、横にあった鏡が視界に入った。

 そこに映っていたのは。

 ――見知らぬ赤子。

 丸い顔。

 小さな手足。

 間違いなく、“自分ではない”。

 いや。

(…………は?)

 思考が、完全に止まった。

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