灰の中で
朝が来ても、空は灰色のままだった。
何も変わらないはずの色。
なのに——
すべてが違って見えた。
レオンは、焼け跡の中を歩いていた。
足元で、炭になった木が砕ける。
——パキッ
乾いた音だけが、やけに響いた。
風は弱い。
煙の匂いが、まだ残っている。
昨日の熱が、嘘みたいだった。
静かすぎる。
「……」
声は出なかった。
出す理由が、なかった。
呼んでも、もう返ってこないとわかっているからだ。
倒れた家。
崩れた壁。
焼け焦げた地面。
その一つ一つが、知っている場所だった。
昨日まで、確かに“生活”があった場所。
「……っ」
視線を逸らす。
見たくないものがある。
それでも、目に入る。
人だったもの。
形を失ったもの。
動かないもの。
知っている顔。
名前が浮かぶ。
でも——
呼べない。
意味がない。
助けられなかった。
何もできなかった。
それだけが、はっきりと残っていた。
気づけば、あの場所に立っていた。
“境界”。
森と村の間。
カーシュが、最後に立っていた場所。
地面は抉れ、黒く焼けている。
何かが、ここで起きた。
それだけはわかる。
だが——
それが何だったのかは、もう知る術がない。
「……」
レオンは、その場にしゃがみ込む。
手で、土に触れる。
冷たい。
ただ、それだけだ。
「……なんでだよ」
ぽつりと、言葉が落ちた。
「……なんで……」
答える人はいない。
最初から、いない。
わかっているのに、口に出てしまう。
「……なんで、俺なんだよ」
拳を握る。
震えている。
「……なんで、生きてるんだよ」
自分だけが、残った。
理由なんてない。
選ばれたわけでもない。
ただ——
運が良かっただけだ。
「……ふざけんな」
力なく吐き捨てる。
悔しさも、怒りも、全部中途半端に残っている。
ぶつける相手もいない。
何も終わっていないのに、終わってしまった。




