ケツァルコアトル 霧の中
霧と粉塵が渦巻く中。
レオンとグラナスの攻防は、なおも続いていた。
間合い。
一歩踏み込めば届く距離。
張り詰めた空気。
その時――
影が、落ちた。
「……っ!?」
気づいたのは、ほぼ同時だった。
横から、巨大な質量が迫る。
ケツァルコアトルの尾。
薙ぎ払い。
「避けろ!!」
誰かの声。
だが考える暇はない。
レオンは反射で飛ぶ。
グラナスも同時に後方へ跳躍。
次の瞬間――
ドゴォォォンッ!!!
尾が地面を薙ぎ払った。
岩盤が砕け、土が抉れ、衝撃波が霧を吹き飛ばす。
一瞬だけ、視界が開けた。
だがすぐに、また閉ざされる。
その一撃で、二人の距離は大きく離れた。
「……チッ」
グラナスが体勢を立て直す。
レオンも着地し、息を整える。
だが――
その背後から。
「おい、大丈夫か!!」
霧の向こう。
ファルガの声が響く。
「レオン!無事か!!」
続けてニクスの声も重なる。
位置は見えない。
だが、まだ戦っているのは分かる。
「……あぁ!!」
レオンが叫び返す。
「こっちは——」
言いかけた、その時。
「……っ」
リシェルが動いた。
離れた位置にいるグラナスを捉え、氷塊を放つ。
一直線に飛ぶ。
だが――
視界が悪い。
わずかにズレる。
氷塊は、空を切った。
「……!」
その瞬間。
ヒュンッ!!
風を裂く音。
死角からの一矢。
狙いは――リシェル。
「っ——!」
反応が、間に合わない。
その前に。
「リシェル!」
ユージンが飛び出した。
身体を割り込ませる。
ドスッ――
「……っ!」
鈍い音。
矢が、肩口に突き刺さる。
衝撃で体が揺れる。
「ユージン!?」
レオンが叫ぶ。
「……大丈夫……!」
苦しげに息を吐きながらも、倒れない。
だが傷は浅くない。
血が滲む。
「……っ」
リシェルが目を見開く。
一瞬の遅れ。
それが、この結果。
霧の奥から、くすくすと笑い声。
「惜しかったねぇ」
デミラの声。
姿は見えない。
だが確実に、こちらを追い詰めている。
上空では――
ケツァルコアトルが再び唸る。
翼が空気を叩く音。
地面が震える。
時間がない。
このままでは、全員巻き込まれる。
(……どうする)
ミレアの思考が加速する。
探知は通じる。
だが、それだけ。
攻撃が通らない。
連携も噛み合わない。
(……このままじゃ、押し切られる)
視線が揺れる。
仲間。
傷ついたユージン。
防御に縛られるリシェル。
押されているレオン。
そして、見えない敵。
(……何か、ないの)
焦り。
呼吸が浅くなる。
その時。
「……あ」
ふと。
思い出した。
書店で手に入れたもの。
鞄に手を突っ込む。
指先に触れる、本の感触。
魔導書。
リンク魔法。
「……これなら」
震える手で、取り出す。
表紙を開く。
そこに封じられた魔力が、わずかに脈打つ。
ミレアは息を吸い込む。




