ケツァルコアトル 経験の差
爆ぜた土煙。
舞い上がる粉塵。
そこに濃霧が重なり、視界はさらに悪化する。
白と灰が混ざり合い、距離感すら狂う。
「……見えねぇ」
ニクスが舌打ちする。
だが、それは前線だけではない。
レオンたちの側でも同じだった。
「……っ」
ミレアが目を細める。
視界は頼れない。
ならば――
魔力を広げる。
探知。
霧の中に意識を浸すように。
(……いた)
微かな反応。
だが確かに、位置は掴める。
「……右前方、少し上……!」
声を上げた、瞬間。
ヒュンッ!!
風を裂く音。
「……!」
反応したのはリシェルだった。
即座に手をかざす。
氷が生成される。
盾。
ドンッ!!
直撃。
透明な氷に、矢が突き刺さる。
だが――その矢には、魔力がない。
ただの物体。
だからこそ、ミレアの探知をすり抜ける。
「……っ」
リシェルが歯を食いしばる。
次。
さらに次。
ヒュンッ、ヒュンッ!!
連続で飛来する矢。
位置は読めても、軌道は見えない。
すべてを防ぐには――
「……防ぐしか、ない」
氷の盾を広げる。
厚みを増す。
バキンッ!!
ヒビが入る。
すぐに補強。
だがその分、攻撃に回す余裕が削られていく。
「はっ……見えてても意味ないじゃん」
霧の奥。
デミラの声が、どこからともなく響く。
姿は見えない。
完全に、霧に紛れている。
「……くそ」
レオンが舌打ちする。
その意識を断ち切るように――
「よそ見をするな」
低い声。
次の瞬間、目の前に影。
グラナス。
すでに間合い。
槍が突き出される。
「ッ!」
咄嗟に剣で受ける。
ギィンッ!!
衝撃。
重い。
そのまま押し込まれる。
「ぐっ……!」
力が違う。
だがそれ以上に――
無駄がない。
動きが洗練されている。
経験。
積み重ねてきた戦いの差。
「……遅い」
グラナスが一歩踏み込む。
槍が滑るように動き、角度を変える。
防御の隙間を突く。
ガッ――!
「ッ……!」
レオンの脇腹をかすめる。
浅い。
だが確実にダメージ。
体勢が崩れる。
「まだだ」
追撃。
間髪入れない連続突き。
「くっ……!」
レオンは防ぐので精一杯。
押される。
完全にペースを握られている。
その時――
「レオン!」
ユージンの声。
淡い光が走る。
傷口が、わずかに塞がる。
痛みが引く。
「……助かる!」
体勢を立て直す。
だが、余裕はない。
すぐに次が来る。
「……連携は悪くない」
グラナスが淡々と呟く。
評価ですらある。
「だが――」
一歩。
さらに踏み込む。
「崩せば終わりだ」
槍が唸る。
霧の中。
見えない矢。
防御に縛られるリシェル。
支えるユージン。
そして押されるレオン。
静かに、確実に。
戦況は、傾き始めていた。




