ケツァルコアトル 暗雲
ギィィィンッ――!!
刃と刃が拮抗する、その最中。
――それは、来た。
ズゥン……
大地が、低く唸る。
「……?」
最初に異変に気づいたのは、誰だったのか。
だが次の瞬間。
それを“全員が理解する”。
――グォォォォォォォォォッ!!!
咆哮。
空気を震わせ、山そのものを揺らすような重低音。
衝撃が、身体を打つ。
反射的に、全員が動きを止めた。
戦闘は――中断された。
ゆっくりと。
まるで引き寄せられるように。
全員の視線が、上空へ向く。
「……なんだよ、あれ」
ニクスの声が、かすれる。
そこにあったのは――
“影”。
空を覆い尽くす、巨大な存在。
霧を押しのけるように、その姿が現れる。
白い鱗。
白い翼。
蛇のように長い身体。
そして――頭部から上半身にかけては、鎧のように艶を持つ外皮。
光を受けて、神々しく輝く。
まるで――
“龍”。
だが、それ以上に異質で。
圧倒的な存在。
ケツァルコアトル。
それが、そこにいた。
「……チッ」
ファルガが舌打ちする。
「派手にやりすぎたか」
その声にも、わずかな緊張が混じる。
「おいおい……マジかよ……」
ニクスは笑う。
だが、その笑みは引きつっている。
「逃げる?…このサイズの相手にか……?」
冗談にもならない。
ただの現実。
圧倒的すぎる現実。
「……っ」
リシェルは無言で杖を握りしめる。
指先に力がこもる。
額には、冷や汗。
視線は逸らさない。
だが――本能が理解している。
“勝てない”と。
「ファルガ!」
ユージンが叫ぶ。
「このままじゃまずい!撤退しよう!」
判断は早い。
ここは戦場じゃない。
“災害”だ。
だが――
「……」
ファルガは、すぐには答えなかった。
視線は、上。
状況を見極めている。
その時。
「……目標、発見」
ぽつりと。
グラナスが呟いた。
視線は、ケツァルコアトルへ。
「はぁ!?」
デミラが声を上げる。
「あれを捕獲しろってか!?」
信じられない、といった声。
だが。
ユージンは、それを聞き逃さなかった。
「……っ」
理解する。
繋がる。
(魔装兵器……)
(魔石……)
(人の魔力……)
そして――
(……素材)
「みんな!」
ユージンが振り返る。
「こいつら……あれを捕まえに来てる!」
「は?」
ニクスが眉をひそめる。
「ケツァルコアトルを……魔装兵器の素材にするつもりだ!」
空気が、凍る。
「……正気かよ」
レオンが呟く。
あの存在を。
“使う”前提で話している。
「チッ……」
ガリューンが舌打ちした。
苛立ち。
だが同時に、判断も早い。
「……戦線離脱だ」
短く告げる。
「捕獲任務へ移行する」
視線を横へ。
「デミラ、グラナス」
「はいはい……了解っと」
デミラが肩をすくめる。
「ったく、面倒が増えたなぁ」
「問題ない」
グラナスは淡々と応じる。
そして三人は――
レオンたちから、意識を外した。
まるで“もう相手ではない”とでも言うように。
「……行くぞ」
ガリューンの一言。
次の瞬間、三人の姿が霧の中へと消えていく。
残されたのは――
レオンたちと、
そして。
上空に蠢く、巨大な存在。
ケツァルコアトル。
その影が、さらに広がる。
まるで――
全てを、飲み込むかのように。




