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ケツァルコアトル 痕跡

翌朝。

 薄く白んだ空の下、レオンたちは再び山道を進んでいた。

 標高が上がるにつれて、空気は明らかに変わっていく。

 冷たい。

 息を吸うたびに、肺の奥がひやりとする。

「……寒くなってきたな」

 ニクスが肩をすくめる。

「昨日とは別物だな」

 レオンも周囲を見渡す。

 木々の間を抜ける風が、鋭さを帯びていた。

「標高の問題だね……」

 ユージンが手を擦りながら言う。

「この先はもっと下がると思うよ」

「……大丈夫です…」

 ミレアは変わらず前方に意識を向けている。

 探知魔法は継続中だ。

 そのまましばらく進んだところで――

「……この辺りだな」

 先頭を歩いていたファルガが、足を止めた。

「え、もう?」

 ニクスが顔を上げる。

「だったらさっさと卵見つけて降りようぜ。こんなとこ長居したくねぇ」

「簡単に言うな」

 ファルガは軽く鼻で笑う。

「そんなすぐ見つかるなら、誰も苦労しねぇよ」

「だよなぁ……」

 ニクスが頭をかく。

「それに——」

 ファルガの声が、少しだけ低くなる。

「卵を見つける前に、“見つかる”方が厄介だ」

「……ああ」

 レオンも理解している。

 ここは、相手の縄張りだ。

 その時だった。

 ファルガが、おもむろに手を上げた。

「——止まれ」

 全員が即座に足を止める。

 そして、ゆっくりと。

 ファルガは霧がかった先へと指を向けた。

「あれ、見えるか」

 その指先を追うように、視線を向ける。

 最初は分からなかった。

 だが、よく見ると――

「……なんだ、あれ」

 レオンが眉をひそめる。

 地面。

 いや、それだけじゃない。

 木々が――

 “なぎ倒されている”。

 一本や二本じゃない。

 まるで何かが“這いずった”かのように、一直線に潰されている。

 地面は抉れ、土が剥き出しになり、木の幹は無理やり押し倒されたように折れていた。

「……は?」

 ニクスの声が、わずかに引きつる。

「デカすぎんだろ……」

 痕跡だけで分かる。

 規模が、違う。

 普通の魔物ではありえない。

 通っただけで、この破壊。

 想像するだけで――

 背筋が冷える。

「……推定、超大型個体」

 ミレアがすぐに分析に入る。

 同時に、魔力を展開。

「周囲を確認します」

 探知魔法が広がる。

 静寂。

 数秒。

 やがて――

「……反応なし。少なくとも、現在位置周辺には存在しません」

 わずかに、空気が緩む。

「助かったな……」

 ユージンが小さく息を吐く。

「鉢合わせとか、洒落にならねぇ」

 ニクスも同意する。

 だが、完全な安心ではない。

 “ここにいた”という事実は消えない。

「……行くぞ」

 ファルガが短く言う。

「警戒は最大限。音は立てるな」

「ああ」

 レオンが頷く。

 全員の意識が、一段階引き締まる。

 先ほどまでとは明らかに違う緊張感。

 レオンはもう一度、痕跡へと視線を向けた。

(……これが、ケツァルコアトルか)

 まだ姿すら見ていない。

 それでも分かる。

 “相手にしていい存在じゃない”と。

「行くぞ、レオン」

 ニクスに促され、前を向く。

「ああ」

 短く答え、一歩を踏み出す。

 山は、静かだった。

 だがその静けさが、逆に不気味さを際立たせていた。

 ――一行は、さらに奥へと進んでいく。

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