ケツァルコアトル 違和感②
翌朝。
まだ空気に夜の冷たさが残る時間帯。
簡素な宿の一室で、レオンたちはすでに身支度を整えていた。
装備の確認。
荷の再分配。
食料、水、簡易道具――必要なものを一つずつ背負い込んでいく。
無駄な会話はない。
ただ、それぞれがやるべきことを淡々とこなしていた。
「……よし」
最後に立ち上がったのはファルガだった。
全員を一度見渡す。
「準備はいいか?」
「問題ない」
レオンが答える。
「大丈夫だよ」
ユージン。
「……平気」
リシェル。
「いつでもいけます」
ミレア。
「うしっ! 行こうぜ!」
ニクス。
短いやり取り。
それで十分だった。
「よし、出るぞ」
ファルガの一言で、全員が動く。
町を出てしばらく。
整備された道は徐々に姿を消し、やがて山道へと変わる。
傾斜は緩やかだが、足場は確実に悪くなっていく。
荷の重みが、じわじわと体力を削る。
「……こっちです」
先頭を歩くミレアが、地図を広げながら進路を示す。
同時に、探知魔法を展開。
「前方、魔物反応なし。右側に小規模な群れがありますが、進路からは外れています」
「回避でいいな」
ファルガが即座に判断する。
「はい」
進路を微調整。
無駄な戦闘は一切避ける。
その判断の積み重ねが、着実に距離を稼がせていた。
日が傾き始める頃。
レオンたちは、かなりの高度まで登っていた。
振り返れば――
「……見えるな」
レオンが呟く。
遠く小さい
出発した町が、まるで模型のように広がっていた。
「結構登ったね……」
ユージンが息を整えながら言う。
疲労は隠せない。
それは全員同じだった。
足取りはまだ崩れていないが、確実に消耗は溜まっている。
その様子を、ファルガは静かに見ていた。
そして、
「……今日はここまでにするか」
短く言った。
「え?」
ニクスが顔を上げる。
「この辺りで野営する。無理しても効率は上がらん」
合理的な判断。
誰も反対しない。
「……了解」
レオンが頷いた。
手際よく準備は進んだ。
テントを張り、火を起こす。
保存食を温め、最低限の食事を済ませる。
会話は少ない。
疲労が、それを許さない。
「見張りは交代制だ」
食後、ファルガが言う。
「俺、レオン、リシェル、ユージンの順で回す。ニクスとミレアは今日は休め」
「助かる」
ニクスが即答する。
「明日以降で調整する」
ファルガの言葉に、全員が頷いた。
やがて、順番に眠りにつく。
山の夜は早い。
静寂が、すぐに訪れた。
深夜。
焚き火の火が、小さく揺れている。
レオンは一人、周囲を見張っていた。
耳を澄ませる。
風の音。
木々の軋み。
遠くの気配。
異常はない。
それでも、気は抜かない。
そんな時だった。
「……レオン」
背後から、小さな声。
振り返ると、リシェルが立っていた。
「……交代」
「ああ、悪い」
レオンは立ち上がる。
場所を譲りながら、ふと口を開いた。
「なあ」
リシェルがわずかに視線を向ける。
「昨日のファルガのことなんだけどさ」
少しだけ間を置く。
「……どう思う?」
問い。
リシェルはすぐには答えなかった。
ほんの少し、考えるように目を伏せる。
それから、
「……いつも通り、だと思う」
静かな答え。
「特に……変なところは、なかった」
「……そっか」
レオンは小さく息を吐く。
(やっぱり、気にしすぎか)
自分だけが引っかかっているのかもしれない。
そう結論づける。
「悪い、変なこと聞いて」
「……ううん」
短く首を振るリシェル。
「……気をつけて」
それだけ言って、見張りに意識を戻した。
「そっちもな」
レオンは軽く手を上げる。
そのままテントへと戻り――
横になる。
疲労が、一気に押し寄せた。
意識が沈んでいく。
最後に浮かんだのは、やはり――
(……考えすぎ、だよな)
そのまま、眠りに落ちた。




