ケツァルコアトル 違和感
魔導書店を出た三人は、そのまま中央広場へと向かっていた。
町の中心に位置するそこは、人の流れが集まる場所らしく、行商人や旅人で賑わっている。
その一角。
噴水のそばで、静かに佇む一人の少女。
リシェルだった。
周囲に視線を配りながらも、動きは最小限。
ただ“待つ”ことに徹している。
三人に気づくと、ほんの少しだけ顔を上げた。
「……どうだった?」
短い問い。
無駄のない声。
「これを入手しました」
ミレアが一歩前に出て、魔導書を見せる。
わずかに、嬉しさが滲んでいる。
リシェルはそれを見て、
「……リンク魔法?」
静かに確認する。
「はい。探知魔法を基盤とした術式です」
「……そう」
小さく頷く。
それだけで、十分な評価だった。
「で、ファルガは?」
レオンが周囲を見回しながら聞く。
リシェルは軽く首を振る。
「……まだ」
「ギルドにまだいるのかな?」
「……たぶん」
言葉は少ないが、状況は伝わる。
「ならさぁ——」
ニクスが肩を回す。
「迎えに行けばよくね?」
誰も反対しない。
自然と決まる。
四人はそのまま、剣士ギルドの方へと歩き出した。
広場を抜け、通りを進んでいくと。
「あ」
ニクスが声を上げた。
前方から歩いてくる男。
見慣れた姿。
「ファルガだ」
レオンが気づく。
そのまま歩み寄る。
「迎えに来たぞぉ〜。ユージンが宿取ってくれてる」
レオンが声をかける。
「広場で待ってたんだけど、来てなかったからさ」
「ああ……」
ファルガは短く返す。
「そうか」
それだけだった。
(……?)
レオンはわずかに眉をひそめる。
言葉は普通。
態度も、いつもと同じ。
だがどこか――薄い。
「どうした?」
一歩踏み込む。
「……なんかあったのか?」
問いかける。
ほんの一瞬、間が空く。
ファルガは視線を逸らし――
それから、
「……なんでもねぇよ」
軽く笑った。
いつも通りの、崩れた笑み。
「ちょっと手続きが長引いただけだ」
「……そうか」
レオンはそれ以上は言わなかった。
言えなかった、の方が近い。
「……行こう」
小さく、リシェルが言う。
それだけで全員が動いた。
余計なことは言わない。
ただ、流れに乗る。
「腹減ったなぁ〜」
ニクスが軽く空気を戻す。
誰も否定しない。
歩き出す一行。
その中で、レオンは一度だけファルガを見る。
背中は変わらない。
歩き方も、普段通り。
それでも。
(……何か、違う)
言葉にならない違和感だけが、胸の奥に残った。




