届かない背中2
村の外れ。
森の手前まで来たところで、カーシュが足を止めた。
「……ここまでだ」
「え?」
腕を離される。
急に支えを失い、レオンはよろめいた。
「何言ってんだよ」
嫌な予感がする。
胸がざわつく。
「一緒に行くんだろ」
カーシュは答えない。
代わりに、ゆっくりと村の方へ振り返った。
燃え盛る光が、その横顔を照らす。
「……数が多すぎる」
静かな声。
「このままだと、森まで来る」
「だから早く——」
「だからだ」
言葉を遮る。
その一言で、すべてを理解してしまう。
「……は?」
理解したくなかった。
「……何言ってんだよ」
「ここで止める」
「無理に決まってるだろ!!」
叫ぶ。
声が震える。
「さっき自分で言ったじゃんか!!持たないって!!」
「持たせる」
即答だった。
迷いは、ない。
「……ふざけんなよ」
レオンの手が震える。
「そんなの……死ぬってことだろ……!」
「かもな」
あっさりと言う。
その軽さに、頭が真っ白になる。
「……なんでだよ」
絞り出す。
「なんで、そんな簡単に——」
「簡単じゃねえよ」
初めて、少しだけ強い口調になる。
「だからやるんだろ」
その言葉に、詰まる。
カーシュは一歩、前に出る。
森と村の“境界”に立つ。
「いいか、レオン」
振り返る。
その目は、真っ直ぐだった。
「生きろ」
「……っ」
「それだけでいい」
「そんなの……!」
「それしかねえんだよ!!」
怒鳴る。
その声は、今までで一番大きかった。
空気が震える。
レオンの思考が止まる。
「お前は、ここで終わる奴じゃねえ」
第1話で聞いた言葉。
それが、今は全く違う重さでのしかかる。
「だから行け」
「……嫌だ」
即答だった。
涙が溢れる。
「絶対嫌だ」
「……」
「一緒に来いよ……!」
子供みたいな言葉だった。
だが、それが本音だった。
カーシュは、ほんの一瞬だけ目を細めた。
それは——
少しだけ、優しい顔だった。
「……無理だ」
静かに言う。
「誰かがやらなきゃいけねえ」
そして、背を向ける。
「……来るなよ」
一歩、踏み出す。
「来たら——」
言葉が途切れる。
少しだけ間があってから、続いた。
「ぶん殴る」
いつもの、ぶっきらぼうな言い方。
それが逆に、終わりを感じさせた。
「……っ」
レオンの足が動く。
止めなければ。
行かせてはいけない。
わかっている。
それでも——
動けない。
体が、言うことを聞かない。
カーシュの背中が、遠ざかる。
一歩。
また一歩。
炎の中へ。
影の群れの中へ。
その背中は——
最後まで、大きかった。




