表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叔母ラヴァー  作者: 黒風月
さとる編
7/55

#7 突然の電話

 高速道路を飛ばして着いたのは港だった。遠くの方に観覧車が綺麗なネオンを光らせていた。僕ら以外にもカップルやグループがいて酔っているのか、騒がしかった。


「うーん、なんか思ったよりも賑やかだね」


 叔母は人が多いからか、周囲を気にしていて落ち着かない様子だった。確かにもし彼女を知っている人がいたら、たちまち大騒ぎするだろう。


「だったら……あそこに行かない?」


 僕は観覧車の方を指差すと、叔母は「賛成」と微笑んだ。



「うわーー! 綺麗ーー!」


 叔母は子供のように目を輝かせて、眼下に広がる夜の街を眺めていた。まるで初めて見たような感想だ。


「テレビのロケでよく行かないの?」

「うーん、似たような所に行った事はあるけど、それは……なんというか、お仕事として行くからそんなに楽しめないのよ。全部がそうじゃないけど」


 そうなんだ。という事は、僕と一緒にいるから……なんてね。


(さとる)


 叔母は急に落ち着いた声色で僕の名前を呼んだ。狭い密室の中で緊張感が漂っていた。


「な、なに?」

「ごめんね。あんまり一緒にいてあげれなくて」


 叔母は憂いを帯びた顔になっていた。僕は「全然。テレビでいつも映ってるから寂しくないよ」と笑顔で答えた。


「私、ちゃんと親代わりになれているかな?」

「どうしたの、急に?」

「いや、なんかさ……ふと子供だった頃の智を思い出してさ。最初はよそよそしかったよね」


 子供の頃――確かに叔母と初めて会った時はまだ両親を(うしな)ったショックの方が大きかったから、しばらくは距離を置いていたけど。叔母を家族として見るようになったのはいつだったのだろう。


「でも、今はもう……叔母さんのこと、大切な家族だと思ってる。朝ごはんも忙しいのに毎朝作ってくれるし、必ず家に帰ってきてくれるし、こうしてディナーやドライブとかに連れてってくれるし……叔母さんと一緒になれてすごく幸せ」


 なかなか普段言えない事を口に出すと、顔がこんなにも熱くなるんだ。僕は叔母の反応が怖くて景色に視線を移してしまった。


「智……ありがとう」


 鼻を啜る音が聞こえてきた。叔母が泣いているとすぐに直感した。


 僕はすぐに叔母の隣に座り、抱きついた。彼女は少し驚いたような声を出していたが、すぐに背中に腕を置いて包み込んでくれた。ほのかにブドウの香りがした。


 すると、アラームが鳴った。叔母はスマホを取り出すと、「ミッちゃんからだ」と言って耳にあてた。


「もしもし……え? 今? 智と一緒にドライブに行ってるんだけど……迎えに? どうして……え? 家出?! なんで? うん、うん、分かった。観覧車を降りたらすぐに……場所も後で文章で送って。うん、じゃあ」


 叔母は通話を切ると、明らかに動揺したような表情をしていた。


「どうしたの?」

「ミッちゃんから電話……なんか凄い取り乱してて、喧嘩したとか、家を出たとか……とにかく迎えに行かないと」


 突然訪れた緊迫した状況に僕は叔母から離れて、姿勢を正した。美智子の身に何かあったらしい。たぶん痴話喧嘩(ちわげんか)か何かだと思うけど、取り敢えず今は彼女と合流する事が最優先だ。


 いきなり叔母とのデートが終わるのは悲しいけど、もし万が一叔母の友人の身に何かあって取り返しのつかない事になるのはもっと嫌だ。


 僕と叔母は観覧車を降りるとすぐに駐車場に向かって、車に乗った。



 どうやら美智子さんは大通りを歩いているらしい。指定された場所の方へ向かうと、美智子を見つけた。芸能人なのに何の変装もせずに飛び出したのだろう、ネクリジェに近いような格好をしていた。


 叔母は美智子さんを後部座席に座らせた。彼女は泣いていた。ネオンの明かりで見た限りでは目立った傷はなかったみたいだから、DVとかではなさそうだ。


 僕と叔母はあえて何も聞かずに黙って家に向かう事にした。着くまでの間、美智子さんはずっと涙を流していた。



 介護するように美智子さんを部屋まで連れていった。身体が震えていたので、ガウンを羽織らせて温かい飲み物をのませた。


「……何があったの?」


 叔母は美智子さんの背中を擦りながら尋ねた。彼女はしゃっくりしながら「……喧嘩したの」とか細い声で答えた。


「喧嘩? 相手は誰?」

「……夫」

「旦那さんと? 仲が良かったじゃない」

「浮気してたの! あいつ!」


 美智子さんが吠えるように叫んだ。僕は直感で二人きりにした方がいいと思い、「僕、寝るね」と立ち上がって部屋に戻ろうとした。


「智くんも一緒に付き合って」


 彼女が突然腕を掴んで、充血した目でお願いされたので、僕は「いいよ」と隣に座った。


「ありがとう」


 美智子さんはそう言うと淹れたばかりのコーヒーをブラックで一息で飲むと、「マミちゃん! 酒持ってきて! 智くんはつまみになるようなもの!」と居酒屋にいるような感覚で注文してきた。


「元気になるまで話を聞いてあげよう」

「そうだね」


 僕と叔母はキッチンに向かい、小声でそう言うと、急いで酒盛りの用意をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ