#6 叔母と二人きりのディナー
僕はこれほど陽気に登校したのは初めてだ。いつもだったら、かったるい授業に憂鬱になるが、今夜の事を考えると鼻歌を歌いそうになった。
廊下の向こう側から山岸先生がやってきた。
「お? 下山、おはよう」
「おはようございます!」
「どうしたんだ。今日はいやに上機嫌だな」
「はいっ! 実は……」
僕は山岸先生に叔母と食事をしに行くことを話すと、彼女は「そうか! 良かったな!」と頭を軽くポンポン叩いた。
「久しぶりのディナー、楽しめよ!」
「はいっ!」
僕は元気よく返事して、教室に向かった。
※
叔母は雑誌の打ち合わせが終わり次第、合流することになっていた。でも、待ち合わせ場所を指定されていないからどうすればいいのかなと思いながら駅前で待っていると、叔母から連絡が来た。
『駐車場に来て。黒い軽自動車でナンバーは……』
これを見た時、僕はアレと思った。駐車場を指定したという事は車で行くのかな? という事は叔母の泥酔に気をつけなくてすむ。そう思った時、肩の荷がおりたような気がした。またあのような過ちをおかさずにすむんだ。
僕は気分ウキウキで指定された場所に行くと、書かれたのと合致する車を見つけた。近づいてみると、ライトをチカチカとさせた。運転席に叔母が手を振っていた。
「叔母さん!」
僕は助手席の方に向かうと、自動でドアが開いた。間違いなく叔母だった。僕は助手席に乗ると、「遅くなってごめんね。待った?」と聞いてきた。
叔母の衣装は普段のスーツ姿だったが、夜の光も相まって艷やかに見えた。僕はその横顔を見つめていたいが、メインである食事に遅れてしまうのはマズイので、「ううん、全然。行こう」と返した。
ドアはゆっくり閉まり、発進した。
※
今回食べに行く三つ星レストランは、都心から少し離れた場所にあるらしい。山の中にポツンとある木造建てで、僕らの他にも車が停まっていた。
叔母が開けると、ワックスでテカテカに光った髪のウェイターが姿を現した。叔母正体が分かると、「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」と案内してくれた。
店内はログハウスをイメージしているのか、海外の山小屋に来たかのような感覚だった。僕のイメージした限りでは、格式高いような感じかなと思っていたが、店内の雰囲気でホッと胸を撫で下ろした。
僕と叔母が席をつくと、次前に頼んでおいたのか、まずはドリンクが来た。当然ノンアルコールの果実ジュースだが、ログハウスを意識しているのか、マグカップで来た。
「それじゃあ……乾杯」
「乾杯」
僕と叔母はマグカップを重ねると、一口飲んだ。
「んん?! 美味しい! 言っていいかわからないけど、ブドウを食べているみたい」
「でしょ? ここはノンアルコールドリンクにも力を入れているのよ」
叔母はそう言ってマグカップに口を付けた。
「珍しいね。普通だったらワインとかを|
嗜みながら料理を楽しむものだけど」
「そうね。みんな車で来るから置いてないだけかな?」
「もしかしたらそういう独創的な所も星の評価に入ったのかな」
「いや、料理だけだと思うよ」
「そうなの?!」
「うん。三つ星レベルは……わざわざ大金をはたいその店に価値があるくらい美味しい料理ってことだからね」
「へー、そうなんだ。知らなかった」
確かに辺りを見渡してみると、海外の人も来ていた。どれも一流の身なりをしているので、僕はこんな歳で贅沢をしていいのだろうかと考えてしまった。
「叔母さん、本当にいいの? こんな店に僕なんかが……」
「せっかく二人きりのディナーなんだから、素敵な時間にしないと!」
素敵な時間――その言葉を聞いて、僕はドキッとした。もちろん、叔母は異性として見ている訳ではないことは分かっていた。けど、僕は心がときめくほど嬉しかった。
なんて事を思っていると、前菜が出てきた。
※
三つ星レストランのフルコースは申し分なく美味しかった。料理もそうだが、叔母とゆっくり会話できる事が何より嬉しかった。
叔母の笑顔と笑い声を聞くと、フルーツジュースを飲みたくなるほどだった。車内では料理の感想でもちきりだった。
「……あ、そうだ。少し寄りたい所があるんだけどいい?」
叔母が突然そんな事を言ってきたので、何だろうなとは思いつつ「いいよ。明日、休みだし」と答えた。
「じゃあ、夜のドライブへしゅっぱーつ!」
叔母はそう言ってアクセルを踏んだ。




