#5 ごめんなさい
気づけば、朝になっていた。気怠い身体を持ち上げると、香ばしい匂いがしてきた。その香りを辿っていくと、叔母がキッチンでウインナーを焼いていた。
「おはよ、智」
「お、おはよう……」
「そうそう。昨日はごめんね。なんかあんまり覚えてないけど布団敷いて寝かせてくれて」
「あの、美智子さんが運んでくれたんだ」
「みっちゃんが? あー、それは悪いことしたなー。時間ができたら美味しい所連れて行こうかな」
叔母はそう言って、テーブルの上に焼きたてのウインナーを置いた。気づかなかったが、テーブルの上にはご飯と味噌汁が置かれていた。
「ほら、冷めないうちに」
「う、うん、いただきます……」
叔母の昨日の艶っぽい姿を思い浮かんでしまい、食欲がわかなかった。けど、叔母を心配させてはいけないので食べることにした。
「今日は撮影とかはないの?」
「うん、ドラマも終わったし……あ、そうだ!」
叔母は箸を置くと「今夜、二人で美味しいもの食べに行かない?」と聞いてきた。
「どうしたの、急に?」
「智、最近夜一人で食べる事が多かったでしょ? 大仕事おわった記念に久しぶりにレストランとかで食事に行こうかなって」
なんて最高のサプライズなんだ。叔母と一緒にディナーできるなんて。あの男性教師達に行ったら、ハンカチを口で引っ張って妬むだろうな。
「ありがとう! あ、でも、当日で予約できるなんて……」
「ふふふ……もう予約してあるの」
叔母は片目をつぶると、スマホの画面を見せてきた。そこは三つ星シェフが振る舞うような一見さんお断りのフレンチレストランだった。
「え? えぇっ?! ここここっ?! ちょ、ちょっと、僕には早いかな……」
「智もいつかは大人になるんだから、こういう経験も大事よ」
「確かに叔母の言うとおりだけど……高いスーツなんて持ってないよ」
僕がそう答えると、叔母は箸で掴んだウインナーを落として目を丸くした。そして、なぜか必死に笑いを堪えているような顔をした後、我慢できなくなったのか、口を開けて笑っていた。
「さ、智……学生は制服を着ればいいのよ。それでドレスコードになるの」
「え? そうなの?」
「そうよ。でも、高級なスーツが欲しいのなら買ってもいいけど……智に合うサイズがあればの話だけど」
なぜか僕の身体をチラチラと見てくるので、僕は叔母の言いたいことが何か察した。
「もしかして僕の子供っぽい体型を小馬鹿にしてない?」
「え? いや、そんな事はないよ。あの、スーツ姿の智を思い浮かべたら七五三みたいに……」
「叔母さん!」
「アハハハハ! ごめんね! ウインナー1個あげるから許してね」
「絶対に馬鹿にしてるじゃん!」
叔母に僕の容姿を揶揄われたが、とても幸せだった。こんな風に気兼ねなく会話できる事が楽しかった。だからこそ、昨日僕が仕出かした過ちが心に痛んだ。
とても言い難い過ちだった。寝ている間に叔母の身体に触れるなんて……犯罪者だ。
僕は叔母が楽しそうに笑っているのを見ながら何度も『ごめんね』と謝った。そして、今夜のディナーでは絶対に叔母を泥酔させない事を堅く誓った。




