#4 泥酔
叔母は深夜零時を過ぎても帰って来なかった。僕の脳内では再び最悪な想像で占拠されてしまった。
叔母が薄汚い男達の手で遊ばれてしまう妄想だ。これが現実なのは絶対に避けたい。いや、仮に起きても彼女は僕の事を思って黙っているだろう。それがまた心苦しい。
(お願いだから、帰ってきてくれ)
心の中でそう祈った――時だった。
「いえ〜〜! にじかいだぁ〜〜!」
何とも陽気な声がドアの向こうから聞こえてきた。何だろうと思って急いで近づき耳を澄ましてみた。
「飲み過ぎよ。これ以上飲んだら間違いなく吐くわよ」
「そんなの上等よぉ〜〜! アハハハハ!!!」
どうやら酔っ払いには連れがいるらしいが、何だろう。聞けば聞くほどその声が身近な人のような声だと認識してくる。
そう思っていると、チャイムが鳴った。すぐに錠を外してドアを開けると、叔母が覆い被さってきた。
「たらいまぁ〜〜!!」
「うわぁああああ!!」
僕は避ける暇もなく押しつぶされてしまった。色んな所が重量級だからか、脱出を試みようとジタバタしたが無駄に疲れるだけだった。
「うごっ! むごごごごっ!」
「ちょっと、マナちゃん! 智くん、窒息するわよ!」
もう一人の声が聞こえてきたと同時に叔母の身体が少し離れた。その隙に僕はネズミみたいに素早く出ると、玄関前に二人の女性がいることに気づいた。
一人は僕の叔母で顔を茹でダコみたいにして寝そべっていた。もう一人の付き添いの女性は顔は赤らんでいたが、彼女ほどではなかった。
ショートヘアに真珠のイヤリングを付け、赤いドレスからでも分かる盛り上がったバスト――あの人しかいない。
「み、美智子さん?」
「はーい♡ 智くん! 久しぶり〜!」
美智子さんは頬にピースサインをして僕に挨拶した。
「マナちゃんがハメ外しちゃってさー。だから、タクシー呼んでここまで連れて来たの」
「あ、そうなんですね。うちの叔母がご迷惑をおかけしました」
僕が一礼すると、美智子は「ハハッ! まるで親みたいに言うね」と八重歯を見せて笑った。
「じゃあ、私はこれで……あとよろしくね」
「は、はいっ! ありがとうございました!」
僕は何度も頭を下げてドアを閉めようとしたが、美智子さんが何かを思い出したのか、「ねぇ」とドアの隙間から声をかけてきた。
「な、なんでしょう?」
「マナちゃんが起きたら言っておいて。『近々遊びに行くね』って」
「はいっ! 伝えておきます」
「ありがとう! それじゃあ、またね〜〜!」
美智子さんはウインクして軽く手を振った後、叔母の脚を挟まないように動かしてからドアを閉めた。
さて、このまま玄関前で寝かせる訳にはいかない。まずは揺さぶって起こす事にした。
「叔母さん! 叔母さん!」
「んん……オバサンじゃない……まだ垂れてないし……」
叔母の寝言に思わずドキッとしてしまったが、すぐさま振り払って違う呼び方で声をかけた。
「ま、真奈美さん、真奈美さん……起きてください」
叔母の下の名前を言うのは何だか変な気持ちだったが、敬語になってしまった。しかし、その犠牲をはらっても彼女は起きなかった。
仕方ない。寝室まで運ぶか。けど、どうやれば安全に怪我なく運べるだろうか。色々と頭の中で考えたが、自分が叔母を抱きしめながら引きずって行った方がいいという結論に至り、早速試してみた。
「せーの、ほっ!」
僕は叔母の上半身をしっかりと抱きしめた。その際、僕の胴体は彼女の溢れんばかりの胸に押されていた。さらに叔母の寝顔も目の前にあるからか、油断したらキスしてしまいそうだった。
僕は本能と戦いながら寝室まで運ぶ事にした。動かすたびに叔母の柔らかな感触がプニュプニュと押したり離れたりして僕の理性を誘惑しようとしてきた。
叔母の口元から漂う口気も僕を惑わせた。かなりお洒落なカクテルかワインでも飲んだのか、アルコールの香りが僕の鼻孔を通り抜け、飲んでもいないのに酔いそうになった。
立ちくらみがして尻もちをつきそうになったが、どうにか踏ん張った。ベッドまで寝かそうと思ったが、さすがに僕の貧弱な腕の筋力ではできないので、フトンを敷いてその上に寝かせた。




