#3 僕は本当に叔母のことを……
放課後になっても怒りが収まる事はなかった。時間が経てば経つほど、あの男性教師達の会話に腹が立ってきたからだ。特に最後の中年教師の質問にはムカムカした。
いくら叔母がグラビアで世の男性達を魅了していたからといって、僕にあんな事を聞くなんて――もし『行きますよ』なんて答えたらどうなっていたのか、考えたくもなかった。
きっと男性教師達は授業そっちのけで、叔母を視姦しに行くかもしれない。そして、あわよくば声をかけて――その後は身震いがするので中断させた。
――毎晩のようにヤリまくるなぁ
ある男性教師の頭が脳裏に響いた。何が毎晩だ。どうせお前らは叔母の身体のことにしか頭がなくて、中身まで見てないだろ。ただ交わりたいとしか考えていない奴らなんかに絶対に渡してたまるか。
それに毎晩だなんて、きっと性愛玩具みたいに乱暴に扱って独りよがりに射精したらアフターケアもせずに、放り出してしまうのだろう。
僕だったらそんな事はしない。叔母とキチンとする日を決めて、まるで恋人みたいにまずはフレンチキスから……あれ?
僕はなんでそんな事を考えているんだ。僕が叔母の恋人だなんて――もしそうなった嬉しいけど、現実はそんなに甘くないし、叔母は僕の事をそういう目で見るはずがない。
「下山」
タイミングが悪い事に、山岸先生に声をかけられてしまった。僕は「さ、さようなら!」と挨拶をして帰ろうと思ったが、「少し話せるか」と引き止められてしまった。
僕は仕方なく鞄を前にして近づいた。先生は「ごめんな。あの、先生達にはキツく叱っておいたから」と申し訳なさそうな顔をして謝った。
「い、いえ、そんな……悪いのは先生じゃないですよ。僕は気にしてませんから」
「そうか……下山は本当に前に比べて大人になったな」
「そうですか? 見た目は子供っぽいですけど」
「まぁ、確かに制服着てなかったら小学生に見えたかもな」
山岸先生はクスッと笑うと、僕の頭を撫でた。
「何かあったら遠慮なく相談しろよ。先生はお前の味方だからな」
その心強い言葉に僕の肉棒の盛りはようやく引っ込んだ。鞄を前から外して歩きやすくさせると、「ありがとうございます! さようなら!」と色んな意味を込めてお礼を言って教室を出た。
※
家に帰ると、テーブルの上に一枚の紙が置かれていた。叔母の筆跡だったので読んでみると、
『智へ
仕事が終わった後、飲み会をする事になったので、遅くなります。
晩御飯は朝言ったように冷凍庫に仕舞ってあるので、お腹が空いたら食べてください。
P.S.マンゴープリン食べていいよ。
叔母より』
こんな感じで書かれていた。
僕は少しだけ不安になった。飲み会の相手が女性だけだったらいいが、もしも相手が男性だったら――僕が大人な動画や同人誌の知識を入れ過ぎたせいか、良からぬ妄想をしてしまう。
例えば、叔母を酔わせて無理やりホテルに連れて行かれて――そう考えると胸が張り裂けそうだった。
汚い手で叔母の身体を弄られるかと思うと、息をできないくらい苦しくなった。けど、『飲み会に行かずに帰ってきて』なんて言えるわけがない。飲み会のおかげで人脈を築いたり、次の仕事に繋がったりする場合もある。
もし僕が無理やり止めて、叔母の仕事のチャンスを奪ったらそれこそ最低じゃないか。
僕は必死にあらぬ妄想を押し殺しながら宿題をして気を逸らすことにした。
※
怒りに任せて書いたおかげでいつもより早く終わった。問題を解くのに体力を消耗したからか、お腹が鳴った。
置き手紙に書かれた通りに冷凍庫を開けてみると、『今日の夕飯』と付箋で貼られた保存袋があった。色と具材を見た限りでは、スープ系かな。
それを鍋に水を入れて沸騰させた後、それを入れて温めた。待っている間にフランスパンがあったので、それを切り分けたり、冷蔵庫にあったサラダにドレッシングをかけたりして待った。
茹で上がったので深皿に入れてみると、ビーフシチューだった。ニンジンとインゲン豆、ジャガイモ、肉がゴロゴロ入っていた。
テレビを見ながらご飯を食べることにした。ちょうど叔母がドラマの告知のためにクイズに挑んでいる様子が映っていた。
とても良い成績とは言えなかったが、イキイキとした様子で答えているのをみると、本当にこういう仕事が好きなんだなと思いながらシチューを食べた。
うん、美味しい。レストランに出してもおかしくないレベルだ。
叔母は本当に凄い人だ。心から尊敬する。叔父はどうして別れたのだろう。こんな素敵な人を手放す理由が思いつかない。
ふとこれからの事を考えてしまった。もしも叔母にも素敵な伴侶ができて、一緒に暮らす事になったら……僕は素直に受け入れられるだろうか。
叔母の幸せが一番だけど、拒絶するかもしれない。できれば永遠にこのまま……。




