#50 最低評価のランチ
一時間と限られた休憩時間の間に食べられる場所は限られていた。このスーパーの飲食店はランチ時もなると、どこも混んでいる中、その中で閑古鳥が鳴いている店があった。
『甘田屋』という定食屋だ。外観は元々ラーメン屋だったのか赤い看板だった。そこには店名の隣に『こだわり定食1000円』としかなく、かなり凝っている店だと分かった。
口コミで調べてみると、恐ろしいほど評価が低かった。他の店に行こうか迷ったが並ぶのも嫌なので、営業中という立て札があった半開きのドアを開けた。
「ごめんくだ……ゴホッゴホッ」
入って早々一瞬で評価が低い理由が分かった。店内はカウンター八席の狭い店内で清潔感は壊滅的だった。席の半分くらいは雑誌や古時計が置かれていたりとほぼ物置だった。雑誌はいつ発行されたのかも分からないほど古いものだった。
定食云々の前に店内を掃除した方がいいと個人的に思った。
しかし、この店の最大の欠点は店内の清潔感ではなかった。
「だーーかーーーらーーー! 立ち退かねぇって、何度言えば分かるんだよっ!!」
店内が揺れそうなほどの怒声が響き渡った。奥にある暖簾から鉢巻きを巻いた女性が固定電話の受話器を耳にあてて現れた。
あの怒声を聞いた瞬間にすぐに立ち去ろうと思ったが、女店主の容姿を見た瞬間、電流がはしった。口からは乱暴だったが、顔立ちは美しかった。ほぼスッピンであるにも関わらず、シミ一つない綺麗な肌と透き通るような瞳、それに鉢巻で巻き付けられたオレンジ色の髪が色気を感じていた。
黙っていれば普通に綺麗な人だろう。黙っていれば。
それに黒いシャツを着ているが、グラビアアイドルに負けず劣らずのスタイルを持っていた。ふと『店内と店主の接客は評価したくないほど酷い。けど、店主のスタイルは百点満点。だけど、死んでも再訪したくない』というレビューが脳裏を過った。
彼女のネームプレートに『甘田瀞美』とフルネームで書かれていた。かなり自己愛が強いと見受けられた。
甘田店主は私がいるのに気づいていないのか、電話を続けていた。
「この店は親父とお袋が受け継いだ大事な店なの! 分かる? あぁっ? 繁盛したのは親の代まで? てめぇ、この野郎っ! 不動産屋のドラ息子っ! 二度と掛けてくるんじゃねぇっ!!」
受話器を壊す勢いで電源を切った甘田店主は興奮状態の牛みたいに鼻息を荒くしていた。
「あ、あの……」
僕は恐る恐る声を掛けると、甘田店主はようやく私がいる事に気づいたらしく、「客? それとも冷やかし?」と睨むように接してきた。
この時点で帰りたかったが、幸運にもお腹が鳴った。すると、甘田店主の顔つきが若干緩くなった。
「客か」
甘田店主はそう言うと、なぜか僕の方に近づいてきた。一体何をされるのかとビクビクしたが、手を差し出してきた。
わけがわからず握手をしようとすると、甘田店主は「いやいや、お金!」と少しだけ表情が緩んだ。
僕はすぐに千円札を手渡すと、甘田店主は「空いている席に座って待ってろ」と言って千円札をヒラヒラ揺らしながら厨房の奥へと消えていった。
僕は不安で堪らなかったが、店主の笑顔(?)が見られたのでその僅かに空いた居心地を頼りに席に座る事にした。




