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叔母ラヴァー  作者: 黒風月
さとし編
49/55

#49 頼りになるスーパーの先輩

 まだ日も起きていない夜みたいな暗い道を進み、スーパーの裏口に立った。少しすると、店長がやってきた。徒歩圏内にあるらしく分厚いコートを着ていた。


「早いね。新人くん」

「はいっ! 今日からよろしくお願いします!」

「やる気があるのは結構だけど、ちゃんと証明できるもの持ってきたの?」

「は、はいっ! 身分証明書と印鑑を……」


 僕は入社するのに必要な書類を店長に渡すと、彼女は軽く頷いた。


「じゃあ、後で手続き済ましておくから事務所に行こうか」

「はいっ!」


 僕と店長は裏口の鍵を開けてアラームを解除した後、事務所に入った。物が乱雑していテーブルにビニールで包まれた制服と名札があった。


「もう用意できたんですか?」

「まぁ、余計に注文して余ったのがあったから。名札は仮だけど少ししたら本部の方から送られてくると思うから、紙の社員証で我慢して」

「大丈夫です! ありがとうございます!」


 僕はありがたく受け取ってエプロンを着けた。だけど、サイズが大きすぎたので、紐をグルグルに縛っていかなければならなかった。三角頭巾は調節が効いたのでうまく頭にフィットさせる事ができた。

 

 僕がアタフタと制服に着替えているうちに、店長はもう制服に着替えて打刻を済ませていた。


 僕は慌てて打刻を切ると、作業に取り掛かった。


 このスーパーは部門別で分かれているから、食品に集中できるのはよかったが、早朝の勤務は予想以上に大変だった。朝から乳製品やパンの品出しを営業開始前までに終わらせなければならない。それに開店準備もしないといけない。


 それが終わると、発注を任され、店長や先輩のパートさんに教わりながらタブレットを使って欠品しているものを注文する。


 発注が終われば消費期限が近い物を値引きして、お客様に商品の場所を聞かれたら案内してーーと目の回るような忙しさを乗り越え、ようやく休憩に入った。


(はぁ、死ぬほど疲れた)


 工場勤務からブランクがあるせいか、まだ半分しか勤務していないにも関わらず全身がズキズキ痛むほど疲弊していた。


 でも、僕には内田さんが作ってくれたお弁当があった。それを食べて英気を養って残り半分の勤務も頑張ろう。


 そう思いながら事務所兼休憩室に入ると、先客がいた。


 三角頭巾を頭に被ったまま片手にサンドウィッチ、もう片方にスマートフォンを手に弄っている女性がいた。年は若い。おそらく二十代前半くらい。金髪に染めた髪と化粧の濃い顔に鋭い目つきーー間違いなく昔ヤンチャしていただろう。


 早朝の時にいなかったから、おそらく営業が始まった時に勤務し始めたのだろう。そういえばレジでこんな感じの人を見たような気がする。


 出来れば関わりたくない相手だが、初めて会った人には挨拶しないと今後の人間関係に影響してくるので、僕は恐る恐る「お疲れ様です」と声をかけてみた。


 すると、その女性はギロッと僕を睨んで返事なのか溜め息なのかも分からない声を出した後、再び画面に視線を送っていた。


「あの、えっと、今日から入りました。か、神山、(さとし)です。よろしくお願いします!」


 僕は深々と頭を下げると、彼女は「よろしく」とだけ返してサンドウィッチを一口かじった。名前を確認すると『(やなぎ)』と書かれていた。


 これ以上関わると柳さんが激怒してきそうなので、そのまま通り過ぎてロッカーの鍵を開けた。鞄から内田さん手作り弁当を食べようとしたがある問題が発生した。


 テーブルが一つしかなく、そこを柳さんが占拠していたのだ。当然先ほどの迫力を目の当たりにしてしまった僕は声をかける勇気はなくロッカーの前でしゃがんで弁当を食べ始めた。


 弁当はミートボールと赤ウインナー、ひじきの煮物、ごま塩が降りかかったご飯という贅沢なラインナップだった。どの料理もどこかで食べた事ある味だったが、内田さんが僕のために準備してくれていたと思うと嬉しくて何倍も美味しく感じられた。


「ねぇ」


 すると、ビクッとさせられるほど鋭い声が僕の耳に入ってきた。顔を上げると柳さんが睨んでいた。


「あ、あの……何でしょうか?」

「聞きたいのはこっち。なんで、ロッカーの前でメシ食ってるの?」

「いえ、あの、それは……」


 僕は言葉に詰まってしまった。その原因となった本人に理由を聞かれたら素直に言った方がいいのかどうか迷った。


「ちょっと、柳さん。新米くんをいじめないでくれるかな?」


 すると、背の高い女性が入ってきた。僕に発注のやり方を教えてくれた先輩のパート、増田さんだ。


 増田さんの登場に柳さんは「別に。何でもないです」と食べ終えたサンドイウィッチの包装紙をグシャッと丸めてそのまま事務所を出て行ってしまった。


「五分前には戻ってくるんだよー!」


 増田さんはそう叫んだ後、「困った子ね」と溜め息をついた。そして、僕の方を見ると快活な笑顔に変わった。


「神山くん、大丈夫? なんか嫌なこと言われてない?」

「いえ、全然! ただ挨拶しただけです!」


 僕は問題が大きくならないように嘘を言うと、増田さんは「そっか。何かあったら言ってね。力になるから」と僕の頭を撫でた。

 

 一瞬だけ美智子さんの面影が過った。確かこんな雰囲気だったような気がするが、あまり思い出すと午後の勤務に影響が出るので早めに振り払った。


 増田さんは三角頭巾を脱いでエプロンも外した。ロッカーからエコバッグを取り出すと、テーブルに向かった。


「神山くん、一緒に食べない?」

「え? いいんですか?」

「うん。逆にどこで食べようとしてたの?」


 増田さんはニヤニヤしながら聞いてきたが、僕は「そ、そうですよね」ととぼけたフリをして隣に座った。


「お? お母さんの手作り?」

「えーと、いえ、僕が」

「へー、そうなんだ! その年でお弁当作ってから仕事行くなんて偉いね〜! あたしなんか、ほらっ! 割引の菓子パンだよ」


 増田さんはそう言ってコッペパンを片手に豪快にかぶりついた。僕は少々緊張していた。発注を教わった時に思ったのだが、彼女はとても綺麗だった。年は分からないけど、化粧していないのに真珠のように煌めいている肌は女子高生並だった。


 お団子にまとめられているからか、うなじも見えた。若干汗が滴っているのを見ると、思わず唾を飲み込んでしまった。


 エプロンがが外れ、白いワイシャツを少しだけ見ると、明らかに突っ張っている部分があった。もしかして結構巨乳なのだろうか。


 いやいや、駄目だ。もうそれ以上は考えてはいけない。


 僕は煩悩を消すためにご飯をかきこんだ。


「おっ、いい食べっぷりだね〜! やっぱ男の子はこうでなくっちゃ!」


 増田さんはまるで自分がお弁当を作ってあげたように嬉しそうにコッペパンを食べていた。

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