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叔母ラヴァー  作者: 黒風月
さとる編
45/55

#45 真実

 悪寒がした。振り返ろうとすると、「動かないで」と先輩の圧力に押されていった。まさかとは思うが、彼女は銃を持っているのだろうか。


「先輩が殺したんですか? あの二人を」

「まさか私が実の両親を殺す訳ないでしょ……でも、こいつは死んで当然だけど」


 意外な返事が来た。僕の最悪な展開では先輩が尊属殺人をした妄想が拡がっていたが、なぜか否定していた。それも気になるが一番は『死んで当然』と思っている相手だ。


「先輩が憎んでいるのはその……今ここに倒れているスキンヘッドの男ですか?」


 そう尋ねると、先輩は少し間を開けて「そうよ」と答えた。


「こいつはね。浮気者なの。数々の女性と関係を持っていた。妻子がいるにも関わらず」

「なるほど……じゃあ、神谷さん――先輩のお母さんがお父さんを殺したと」

「えぇ、そうだと思う。会った時は銃を持っていたし」


 今の言葉で先輩が神谷さんと前々から連絡を取っていたことが分かった。けど、気になるのはどうして占い師と評して会わしたのか。


「なぜ初めて神谷さんと対面した時に『うちの母です』と紹介してくれなかったんですか? どうして隠していたんですか?」

「それは……ママが怖かったから」

「怖かった?」

「もし私の彼氏が芸能人の息子だと知ったら、ママは徹底的に調べると思う」

「でも、当てられちゃったじゃないか」

「そう。だから、後悔した。もしかしたら許してくれるかもって……でも、許すどころかこんな仕打ちを……」

「先輩の思い込みだと思いますよ。神谷さんは僕の味方だと思います。やり取りをしていたり、デートをしていた時もとても演技だとは思わなかった。本心で僕と一緒にいることが楽しいと思っていました」

「罪滅ぼしよ」


 罪滅ぼし――その言葉に妙な引っ掛かりを覚えた。


「どういうことですか? 罪滅ぼしってなんですか?」

「あなたのご両親は交通事故で亡くなったのよね?」


 僕の全身に鳥肌が立った。どうしてここで僕の亡き両親が出てくるんだ。


「な、なんで、そんなことを……」

「あれ? 本当に事故だと思ってるの?」


 さらに神経を逆なでしてきた。一体何を言っているのだろう。ただでさえ脳内が混乱しているというのに。


「どう、どうしてそう思うんですか?」

「ママは昔から何かを背負って生きているみたいだった。ママはアイツの言う事には逆らえないような……言いなりのような気がした。だから、色々調べてみたの。そしたら、ママの過去を知った。パパはその弱みを握っていた!」


 僕は車内での二人の会話を思い返してみた。僕が思い出せる限りでは、対等に接していたと思うし、むしろ少し上のように思えた。彼女の思い違いだろうか。それとも、たまたまそういう場面を目撃しただけなのだろうか。


「昔、ママが話しているのを聞いたの。パパがママと結婚する前に三股していたこと。あろうことか、その三人は嫉妬して計画を立てて()き殺した」


 ヒキコロス――たった五文字が僕の思考を停止した。危うく呼吸困難になりかけたが、どうにか正気を保って話しかけた。


「そ、その……三人は誰なんですか?」

「私のママと――」


 先輩が話そうとした瞬間、突然止んだ。そして、何か倒れるような音が聞こえた。振り返ると、先輩がうつ伏せに倒れているのが見えた。


 けど、それよりも幻のような光景が広がっていた。鉄パイプを持った美智子さんだった。


「智……」


 美智子さんが近づこうとしたが、この状況ではとても抱きつこうとは思わなかった。


「美智子さん……前に旦那さんが浮気していたって言ってましたよね」

「そうよ」

「それって、今ここに寝ている人?」

「そう。私の元旦那」


 もう隠し事はできないと思ったのか、変な言い訳もせずに近づいてきた。


「でも、私は三番目。四番目は神谷っていう私の同期……私達と付き合う前から可愛い娘さんを仕込んでいたけどね」


 もう何も考えたくなかった。これ以上、壊したくはなかった。僕の本能が逃げろと叫んでいた。美智子さんは何を仕出かすか分からない。今の彼女は彼女ではない。美智子さんの皮を被った何かに見えた。


 僕は出口に向かおうとした。が、背後から誰かが入ってくる音がした。挟まれたと直感した。


「私は二番目。一番は私の姉だった」


 この声を聞いた瞬間、脳内が白紙になった。夢であって欲しかった。悪夢であって欲しかった。けど、この遺体安置所みたいな薄気味悪い静けさと寒気がした。


「姉が羨ましかった。好きな人と一緒に結婚して、あんな可愛い子供がいて……それに比べて私はあくまで愛人扱い。あの時の私は耐えられなかった」

「だから、神ちゃんと一緒にファミレスで計画を立てた。あなたのママに面倒を見るから旦那さんと二人で出かけておいでって」


 美智子さんが間に入ってきた。拷問を受けているかのような心地だが、挟み撃ちにされているので腹を括るしかなかった。話の続きは背後にいる彼女が繋いだ。


「預けていた息子を返す連絡して、あまり人気のない場所に呼び出させて。私が運転して、助手席にカミちゃん、後部座席にはミッちゃんとチャイルドシートに座った智がいた。

 二人が手を振ってきた瞬間、どうしようもないぐらい嫉妬に駆られた。気づいたらアクセルを強く踏んでいた。本当は二人とも殺すつもりだったけど、寄りによってあの男が生きてしまった。あの男は晴れて私のものになったけど、そう長くは続かなかった。智がいたから」


 叔母が話した後、交代するように美智子さんが口を開いた。


「私との結婚もうまくはいかなかった。神谷ちゃんの子供……秋武(あむ)ちゃんに愛情が向けられていたのかもしれない」

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