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叔母ラヴァー  作者: 黒風月
さとる編
43/55

#43 占い師の正体

「バンッ……なんてな」


 男はからかうように銃口を向けていると、神谷さんが「止めなよ。怯えているじゃない」と止めてきた。僕は彼女を改めて見た。占い師という雰囲気は薄れ、今はタバコをふかした誘拐犯の一味にしか見えなかった。


「神谷さん、どうしてこんなことを?」


 僕は言葉遣いに気をつけて質問した。神谷さんはもったいぶるようにタバコに口を付けた後、ふぅと白い煙を吐き出した。


「そうね……強いて言えば、あの二人に痛い目にあってほしかったってところかな。順風満帆な人生を送ってきたあの二人」


 二人――思い当たるとしたら、叔母と美智子さんしかいない。でも、神谷さんと叔母達とどういう関係を持っているのだろう。その答えを神谷さんは話してくれた。


「昔、私と真奈美、美智子とは同じ時期にデビューしたの」


 急に叔母と美智子さんの名前が来て目を食らった。僕は彼女には二人の名前は一切明かしていなかったからだ。神谷さんはまたタバコを吸って、話を続けた。


「最初の頃はみんなで一緒に有名になろうねとか話していた。仲は良かった。年も近かったし。同級生みたいにいつも一緒に食事に行ったりとかして……けど、あの二人が売れ出した。そりゃそうよ。私なんかよりもずっと、ずっーーと、ビジュアルが良かったし、演技もうまかった! 結婚もあの二人の方が先に……私はね。埋もれちゃったの。気づけば、ドンドン私の手の届かない所まで行っちゃって……それにあなたみたいな可愛い子供まで持っちゃって……悔しかった。憎かった!」


 彼女のタバコを持つ手が震えていた。僕は前に思い出した記憶が脳裏を過ぎった。どこかのレストランで一緒に食事していたのは若かりし頃の叔母と美智子さん、そして、神谷さんだったのだ。


「グラビアを引退した後、色んな職業を転々として惨めな生活を送ってきたわ。時には元グラドルの女優としてAVとかにも出たっけ。占いもそうだった。たまたま私はコミュニケーションが人よりうまくて感が鋭いからなっただけ。まぁ、占い師はたまにテレビとかにも出てくるからもう一度芸能活動したかったのかも……いや、まぁ、いいわ。そんなこと。

『ビューティーシューティングスター』なんて名乗ったのも、『神谷沙奈子(かみやさなこ)』として活動を再開したら、黒歴史がバレてしまうもの」


 神谷さんは大きく息を吐いた。このまま魂が抜けてしまうのかと思うくらい長い溜め息だった。男は静かに腕を組んで彼女の話を聞いていた。特にこれといった反応がなかったが、若干頭を下げて耳を傾けていた。


 しばらく苦しいぐらいの沈黙が流れたが、それを破ったのはスキンヘッドの男だった。


「さて、もうそろそろいいだろ。さなこ。早いとこ決断しないと。こいつの叔母達を脅して金を取るか、このまま殺すか……」

「殺すですって?」


 神谷さんは緊迫した表情に変わり、男の方を見た。


「どうして、殺さないといけないの?」

「痛い目に合わせたいんだろ? 一番精神的な苦痛は愛する人の死だ」

「でも、だからといって智くんを殺すなんて」

「じゃあ、脅そう。もうサツにも連絡して身代金の要求が待っている頃かもしれない」

「えぇ、そうね。逆探知されないようにしないと」

「あぁ」


 神谷さんと男は準備に取り掛かっていた。汚れた机を払いのけるように綺麗にした後、刑事ドラマでしか見たことないような機材が並んでいた。


「たすっむぐぐぐぐっ!!」


 僕は声を張り上げて助けを呼ぼうとしたら、男が口にタオルを巻きつけて塞がれてしまった。



「おっと、お前はこれを付けていろ」


 男はヘッドホンを付けた。両耳から鼓膜が破れるほどメタル系の音楽が流れていた。次にアイマスクが付けられた。これで完全に外の状況が分からなくなってしまった。


 SOSも出せず、両耳から歌詞の聞き取れない荒々しい音楽が流れるという地獄みたいな状況に発狂しそうになった。


 それにこの音楽は同じ曲を何度も繰り返すタイプらしく、永遠に変わる事のない演奏に精神がおかしくなった。脳内はマグマみたいにドロドロとしたものが流れ、悪魔の羽根が生えた煮卵がカエルを食べているという幻覚が見えた。


 が、急に爆音が止んだ。誰かが外してくれたのか頭を振っていた時に外れたのかは分からなかった。脳内では未だに激しくドラムが叩く音が聞こえ、耳鳴りが酷かった。


 それをどうにか除けて外の物音を確かめようとした。けど、まるで誰もいないかのように静まり返っていた。


 僕は助けを呼ぼうと地団駄を踏もうとしたが、床が妙に柔らかった。まるでクッション――いや、間違えて肉を踏んでしまったかのように。


 必死に頭を振っていると、アイマスクがズレた。片目だけ見ると人の脚のようなものが見えた。嫌な予感がして下を向くと、男のスキンヘッドが見えた。タンクトップの胴体から血溜まりが出来ていた。


(撃たれたんだ)


 僕は直感でそう思った。もし神谷さんが僕の味方なのだとしたら、男の拳銃を奪って解放するように脅したのだろう。それで取っ組み合いになって発砲した。


 けど、なぜ僕の拘束を解かないのか、何か問題があるのか――と思った時。


 パァーーーーン


 小屋の外から銃声が聞こえた。

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