#42 囚われの身
男と神谷さんは僕がまだ起きている事に気づいていないみたいだったので、寝たふりをして話を聞く事にした。
「今頃あの二人は血眼になって探しているだろうなぁ」
「迷子センターに連絡しているかもね」
「それにしてもよく見つけたな」
「えぇ、たまたま見覚えのある顔だったから」
「で、こいつをどうするんだ? 下手したら警察に連絡しているかもしれないぞ」
「そしたら、あなたの方で何とかしてよ」
「俺に言われてもなぁ。サツが相手じゃどうにもならないし……それにこいつ見た目はガキだが高校生だろ? 脱走するぐらいの知恵はあるだろ」
「分かってるわよ。適当にボイスチェンジャーが何かで身代金を要求しておいてよ」
「うーん、成功は限りなく厳しいぞ」
「どっちにせよ、防犯カメラで顔が割れるのがオチよ……今、財布の中に有り金いくらある?」
「百万だな」
「さすがね」
「まぁな。いつでも高飛びできるようにな……お前まさか」
「えぇ、空港に向かってちょうだい」
なんてことだ。まさか僕ごと海外に連れ出すつもりなのか。叔母達もまさか日本から離れいるとは思わないだろう。僕今できることはなんだろう。バレないように剥がそうと試みるが、全然うまくいかなかった。
「ところで、こいつのスマホは大丈夫?」
「問題ないわ。GPSの機能も消しておいた」
「なぁ、さなこ。海外よりも人気がない方がいいんじゃないか」
「富士の樹海とか?」
「あそこは変な奴らがいるから駄目だ。山奥とかどうだ?」
「うーん、そういえば誰も使っていない小屋を購入したって言ってたよね」
「あぁ、万が一に備えてな」
「そこに行きましょう」
「了解」
僕は海外の高飛びの計画が白紙になって安心したが、危険が去った訳ではない。今度はどこの場所かも分からない山に監禁されるのかと思うと涙が出そうになったが、もしバレて今の話を聞かれたら命が危ないのでひたすら狸寝入りに集中した。
※
どれくらい時間が経ったのだろう。気づけばエンジン音が止まっていて、ドアが勢い良く閉じる音がした。かと思えば、僕の頭の方から機械的なアラームとウィーンと動く音が聞こえてきた。
「乱暴にしないでよ」
「分かってる」
僕は男の手と思わしきものに掴まれ、担がれていった。まだ気絶していると判断しているのか、少し扱いが雑だった。鼻孔から男の汗と綺麗な空気が入り混じって入ってきた。
耳を澄まして見ると、虫や鳥の鳴き声、後は風で揺れる木々と思わしき音色も聞こえてきた。肌寒いことから本当に山小屋にいるのだろう。
男の足音に遅れて小さい足音も聞こえてきた。どうやら神谷さんが後から付いて来ているらしい。
ドアが開き、カビみたいな臭いが来た後、僕の尻が硬い板にぶつかった。そして、両手にきつく縛られているような感覚がした。
「さて、そろそろ起こすか?」
「えぇ、その方がよさそうね」
僕の心臓が跳ね上がった。いよいよ誘拐犯達と対面する時が来てしまったのだ。
「おい、お坊ちゃん。起きろ。おーい」
男が軽めに頬を叩いてきたので、僕はさも今目覚めたように薄っすらと目を開けた。
「う、うーん……ん?」
そして、困惑した顔で辺りを見渡した。小屋の中は必要最低限のものしかなかった。木のテーブルの上にはカップ麺やペットボトル飲料が散乱していた。
サッと見たところ、斧や銃などの物騒なものはなかった。いや、だからといって油断できない。
男は予想通り屈強な身体をしていた。タンクトップから丸太の如き筋肉をつけた腕が出ていて、顔を覆ってしまうのではないかと思うくらい手が見えた。白い生地から破れそうなくらい大胸筋が盛り上がっていた。スキンヘッドでサングラスを付けていた。
「おぉ、ようやくお目覚めかい」
「ぼ、僕をどうするつもりだ!」
「取り敢えず、お前の叔母さんに身代金を言うつもりだ。もし警察に言ったり支払わなかったら……」
男のポケットから拳銃が出てきた。




