#41 突然
さすがに四日間という時間もあり、大体の所は行っていた。が、一つだけ体験できていないことがあった。
パレードだ。週に一回ランダムに行われていて、それを見たものは幸運に恵まれるとか恵まれないとか。
僕達はそれに一回も遭遇していなかった。SNSで調べてみた所、来る前も行われていなかったらしい。ということは、今日しかない。それを知っていた来場者達はパレードを最前列で見ようと早くも人が集まっていた。
僕達は揉み合いになりながら必死に前に進もうとしていた。僕はしっかりと叔母の手を握っていた。自分の小さい身長だとはぐれてしまう可能性があったからだ。
美智子さんが先導して良い場所はないか探してくれた。別にパレードが見えれば前でなくてもよかった。そして、レストランのテラス席が遠くから見える事に気づいた美智子さんはすぐに席を確保しようと駆けて行った。
僕と叔母は相変わらず手を繋いで彼女の後を追った。しかし、中途半端に列の中に入ってしまったがために、思うように抜け出せなかった。
「すいませーーん、通してくださーーい!」
僕は声を張り上げて譲るように言った。叔母が声を出してバレてしまったらせっかくのバカンスが台無しだからだ。僕の掛け声のおかげか、心優しい人達が道を開けてくれた。
どうにか列から抜け出して美智子さんが待っているレストランに向かった。すると、彼女がテラス席から手を振っていた。どうやら間に合ったらしい。僕と叔母は一安心して美智子さんと合流した。
僕と叔母はほぼ同じタイミングで水を飲んで、ホゥと一息ついた。
「はぁ、疲れた」
「ほんとやんなっちゃうぐらい人混みよね」
「全く本当に……この地域にいる人達が全員集まってきたみたいの人たがりよ、これ」
叔母は少し愚痴をこぼすように言っていた時に、ウェイターがやってきて注文を取った。僕達はモーニングを取る事にした。どうにかパレードを見ようとホテルのビュッフェを抜きにしておいたのだ。
たまたま入ったレストランだけど、和洋中の料理が楽しめる幅広い客層を狙った所だった。僕は中華粥、叔母は鮭定食、美智子さんはトーストを頼んだ。
すると、アナウンスが流れた。迷子のお知らせかなと思ったが、スタッフの声はなく陽気な音楽が流れていた。僕はすぐにSNSで調べてみると、パレードの合図を知らせる音楽らしい。
僕達はパレードが行われるであろう通りに注目していた。ふと尿意を催したくなってきたので、トイレに向かった。人混みを掻き分けて進んでいた時、突然誰かとぶつかってしまい、尻もちをついてしまった。
「ごめんね。大丈夫?」
親切に手を差し伸べてきたので手を握ると、相手は神谷さんだった。
「あれ? 神谷さん」
「もしかして、智くんもパレードを見に?」
「はい。そうですけど……神谷さんもそうなんですか?」
「うん、そうなんだけど……あっ、智くん。少し付き合えない?」
「え? あの、トイレに行かないといけないんですけど……」
「じゃあ、待ってるから」
神谷さんはどうしても僕と一緒に行きたいらしい。僕は困ったなと心の中で思いながら用を済ませて、ドアを抜け出した――その時だった。
何か口元に抑えられたかと思うと、僕の意識が遠退いていくのが分かった。一体僕の身に何が起こったのか分からないまま視界が暗くなった。
※
身体が揺れていた。夢の中で僕がトロッコに乗って宝を探すゲームをしていた。あの心地がまるで正夢みたいに体感していた。もしかして、今ぼくはアトラクションに乗っているのだろうかと思って目を開けると、そこは洞窟ではなく座席の後ろ姿だった。
正確には車のシートだった。目の前には運転席と助手席があって、どちらも乗っていた。ハンドルを握っているのはスキンヘッドの男だった。タンクトップらしき格好をしていて、屈強な筋肉が除いていた。
「こいつが芸能人の甥っ子か?」
野太い声が運転席から聞こえてきた。間違いなくあの男だろう。僕は薄目を開けて様子を伺った。助手席の方からタバコの香りがした。
「えぇ、そうよ」
声色で分かった。神谷さんだ。どうやら男と関係を持っているらしい。僕は状況を整理する事にした。さっきまで夢の国にいたはずなのに、今は車の席に横たわっている。四肢が結束バンドで拘束されているので、動けない。この状況から考えられるのは一つしかない。
(誘拐されたんだ)
僕の全身の鳥肌が立った。




